TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】お願い師走

執筆:桂九ノ一

2025年12月26日

齢三十にして
家庭を持たず
日銭を稼ぎ
よだれを垂らしながら
古いロックを聴く日々に

このままではいかん
ここは一丁
真人間らしく生きてみるかと
勢いよく万年床を飛び出すと
まずは、洗濯をば

『人生はせんたくの連続だ』
ユアン・マクレガーも言うてたし
とかブツブツ言いながら
いつもは目分量の洗剤を
箱に書いてある通りに入れ

日頃は台所で立ったまま済ます朝食を
洒落に椅子にでも座ってみるかと
考えたものの、我が家の椅子は
アフリカのセヌフォ族がこしらえた
座ってみると立ってるよりしんどいやつ
それしか無いことに気がつくのです。

どうも落語家の桂九ノ一です。
本日もよろしくお願い師走。

たまに、私なんかにもサインを求めてくださる方がいる。ありがたい。小さい色紙やノート、領収書ならば、『桂 九ノ一』と名前だけを書かせていただく。

が、いわゆる大きい色紙の場合、そうは問屋がおろさない。27cm×24cmの大きすぎるキャンバスには何か一言添えなければ、格好がつかない。この文句が大変難しい。

師匠方を横目で見ると、
「笑門来福」と書かれる方が多い。
笑う門には福来る。と言うのだ。

とてもいい言葉。だが、私には書けない。

そんなこと書いて、高座でスベっていたら目も当てられないだろう。

まして、お前が一番不幸そうな顔して何を言ってやがんでぃ。ともなりうる。荷が重すぎる。

我が一門の総帥
桂 米朝師匠は自作の俳句を書かれている。

春の雪 誰かに電話 したくなる

さすが人間国宝。風情がある。かっこE。

そこで、私も10年ほど前に作った短歌を引っ張り出してみる。

バイパスの 油汚れと 安うどん
聞いてください 涙のワケを

意味がわからない。何があったのだろう。書いた時期のことを思い出そうとすると酷く頭痛がする。辛いことがあったのか。

色紙の文句は難しい。

まして落語ファンの方々は六十代以上の人生の大先輩。穏やかな日常に波風を立てるわけにもいかない。色紙の一言で余計な刺激を与えてしまい「寄席なんかに来てる場合とちゃう。もっとやるべきことがあるはずや」と一念発起されても大変困る。

刺激が少なく、まろやかな言葉が何かないか。できる限り、自分にも相手にも関係ない、当たり障りのない聞いたことがあるような、誰も傷つけない言葉。それでいて、力強く、元気付けてくれるもの。

「我が巨人軍は永久に不滅です」

これや!!!!

座りにくい椅子とWEAPON

座りにくい椅子とWEAPON

プロフィール

桂九ノ一

かつら・くのいち|2016年桂九雀に入門。NHK新人落語大賞に2年連続決勝進出。アナログDJとしても活動しておりFUJIROCK FESTIVAL’25に出演。東京大阪の二拠点生活中。

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