TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】インドでストレスフリーに暮らす術

執筆:石濱匡雄

2025年12月27日

人多い! うるさい! 活気あふれるコルカタの商店街。薬から酒まで何でも揃う。夕方を過ぎると混雑するので昼間に行くのがお勧め。

 大阪にいる時は大阪弁を話し、コルカタにいる時はベンガル語を話して生活しているが、その二都市の言葉の違いは「言語」だけではない。大阪人は比較的ストレートに物事を表現するが、とはいえ普段日本に暮らしていて声を荒げることなんて少ない。それに比べてコルカタでの暮らしは色々と違う。

 この15年ほどの間に、ローカルな市場しかなかったのに大型スーパーが出現し、チャイ屋しかなかった街に外資系のカフェが立ち並ぶようになった。ただ、スタッフが教育されていないのか、要望が無視されることが多い。カフェに入ってもこの調子だ。

「あの〜すんません、カフェラテMサイズ1つお願いします」
「カフェラテのMサイズですね? ご一緒にクッキーはいかがですか?」
「いえ、カフェラテだけで結構です」
「じゃあケーキはいかがですか?」
「さっきランチ食べたんです」
「サンドイッチは?」
「腹減ってない言うとるやろ! しばいたろか!」

みたいなやり取りをするのが日常茶飯事。少し強めに言わないと相手が折れない文化があり、多少ストレートに言っても誰も気にしないから気が楽になる。

舞台をスーパーに変えるとこんな感じ。カートを取り、広い店内を歩いていると、まるで自分がスターにでもなったかのようにスタッフが詰め寄ってくる。

「ダージリンの紅茶は如何ですか?」
「まだ家に紅茶あるんで結構です」
「じゃあアッサム茶は?」
「いや、今いらん言うたやん」

野菜コーナーでも
「ベビーコーン如何ですか?」
「要りません」
「マッシュルームは?」
「要りません」
「レタスは如何?」
「うるさいねん! 今日のおかず魚のカレーですねん!」

レジに行くと、
「お客様、ドッグフードは如何ですか?」
「ウチの犬死にました! 享年14歳でした!」

イライラしているようで、どこかこのやり取りを楽しんでいる自分がいた。ストレートに物事が運ばないコルカタの日常。大阪より不便でも、何でも口に出せる暮らしの方が、案外ストレスフリーなのかもしれない。

次回はコルカタで出会った家族のお話をメインにお話します。

コルカタのローカル市場。スーパーの方が買い物は楽だけど、市場の方が魚も野菜も新鮮そのもの! 大阪から持って行った丈夫なエコバッグが役に立つ。

10年ほど前に頼んだカフェラテ。7って何だろう? と思っていたら自分のテーブル番号だった。さすがに今ではラテアートでテーブル番号描かなくなった。

 次回は、コルカタの日常生活と大阪での生活を比べてみたお話です。

プロフィール

石濱匡雄

いしはま・ただお|15歳でインドの弦楽器シタールを始め、1997年に渡印。モノジ・シャンカール氏に師事する。近年は香港やアメリカなど、国内外で精力的に演奏活動を展開。NY・コルカタ・大阪の三都市で録音されたアルバム『Tattva』をリリースしたほか、初のエッセイ集『インド音楽とカレーで過ごす日々』(LCCインセクツ)も出版された。

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