TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】おもろ美しいインドの布

執筆:石濱匡雄

2025年12月20日

 インドの買い物で最も楽しいことの一つは、お気に入りの布を見つけること。各州ごとに、独特の染・織・刺繍といった技術を使って表現された、伝統柄からモダンな柄まで数えきれない種類の布が存在する。モダンな柄とは言ったけれど、例えば先日見つけたのは、伝統的な班染めでくるぶしから下の足の柄が無数に散りばめられた布、なぜか車を無数に刺繍したもの、10人くらいの顔がランダムにプリントされた布……などなど。変な布を店で見かける度に「これ誰が買うんやろ?」と思うと同時に、「これ買うのは自分しかおらへん」と変な使命感と共につい購入してしまう。気になる布を探して広い街を探し回るのは、宝探しのようでもある。

SNSのアイコンが木版染めされた布。アイコンの柄が一つずつ微妙にズレたり滲んだりしてるのは手作業で木版を押していった証拠。

 自分の場合、そうやって気に入った生地を見つけてはステージ衣装に仕立てることが多いのだが、もちろん失敗もある。以前、ベンガルの伝統的な柄が織られたストールを買ったので、それに合う色の生地を探して、クルタというワンピースのような丈の長い男性用民族衣装を仕立てた。布の色だけを見れば美しいエメラルドグリーンの無地の生地だったが、出来上がったクルタに袖を通すと、首周りのゆったりしたラウンドネック、少し長めの丈、そして何よりこの色。鏡に映る自分の姿を見て感じた印象は「これ着て行く場所ってステージじゃなくて、オペ室やんか…」そう、よくTVドラマなどで登場する手術着が高級なインドの手織りの生地で仕上がったのだ。悔しいので一度だけ公演の時に着てみたけれど、舞台写真を後日見せてもらったら、オペ室から出てきたドクターが派手なストールを巻いて、楽器を抱えてるようにしか見えなかった。もう今後着ることはないと思う。

もう舞台で着ることはないけど、今後オペ室のコントとかやる時が来るかもしれないので置いておく。

 そんな失敗もあるかもしれないが、インドに旅行される方にはぜひ布で何かを仕立ててみるのをお勧めしたい。地図アプリで「fabric store」と検索してみると、インドのどの都市でも膨大な量の布地屋が見つかるので、シャツ一枚でもトライしてみるのはどうだろう? 布地屋で仕立てられる場合もあれば、近所の仕立て屋を紹介してくれる場合もあり、10人くらいの顔がランダムにプリントされた布を使ってセットアップのスーツ仕立てるなど、夢は広がるばかりだ。

コルカタにある小さな布地屋さんの店内。この画像に写っているだけでも数百種類。

 次回は、コルカタの日常生活と大阪での生活を比べてみたお話です。

プロフィール

石濱匡雄

いしはま・ただお|15歳でインドの弦楽器シタールを始め、1997年に渡印。モノジ・シャンカール氏に師事する。近年は香港やアメリカなど、国内外で精力的に演奏活動を展開。NY・コルカタ・大阪の三都市で録音されたアルバム『Tattva』をリリースしたほか、初のエッセイ集『インド音楽とカレーで過ごす日々』(LCCインセクツ)も出版された。

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