TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】誰かのビジョンを実現しようとすること

執筆:メイ・カーショウ (BC,NR)

2025年12月22日

May Kershaw


text: May Kershaw (BC,NR)
translation: Tomoko Kochi
edit: Eri Machida

数年前に、ジョン・ブライオンのインタビューを見たことがあり、彼は仕事やクリエイティブな活動におけるバランスの取り方について語っていました。彼にとって大切なことは「プロジェクトごとに異なる役割を持つこと」:人とコラボしながら仕事をする、他人のビジョンを支える(例えば、映画監督に従属するなど)そして自分のアルバムは全決定権を持って作る、そういったバランスについてでした。

このインタビューを聞いて、私もこれらの分野の音楽をやってみたいという気持ちに駆られていたので、面白いと思いました。私はピアノを少し教えているし、BC,NRで曲を書いたり演奏をしたりするし、個人的にも少し曲を書いていました。やりたかった最後の要素が揃ったのは、2年前に演劇の付随音楽を書く依頼が来たときでした。

演劇については、全くの門外漢で恐れもありました。チェーホフの作品(「桜の園」)、才能溢れる俳優陣、演出家、スタッフ。この状況に少々たじろいでしまっている私の気持ちが作曲した音楽に少し表れてしまいました。期待されているものを書かなくてはいけないと、恐る恐る書こうとしていたように思います。でも、それは信じられないような体験でした。稽古場に数週間入ることを許され、俳優陣がどのように演劇を探求し、演出家がどうチェーホフを解釈するかを見ることは、私に衝撃を与えました。この期間、そして数週間後、彼らが考え抜いたチェーホフの世界を目にすることができました。劇中で起こるすべてにおいて、微妙なニュアンスや理解と誤解が重なり合い新たな世界となっていく・・・私はとても感銘を受け、稽古に通い、戯曲への曲作りに忙しい中、ある曲を書き上げました。それは「ビッグ・スピン」という曲名で、BC,NRの最新アルバムに収められています。「桜の園」のある側面が個人的なエピソードと繋がって生まれた曲です。

演劇への作曲に関しては、もし同じような依頼が来たとしたら、もう少し大胆に取り組みたいと思います。

その1年後、映画音楽への作曲を依頼されました。監督は脚本を私に読ませてくれて、映像は見ないで自由に作曲してほしいという理想的な提案でした。私はオルガンとピアノによるデモ曲を録音し、監督は音楽の方向性を気に入ってくれました。その後、作品を完成させ録音をしたところ、なんということか、私が書き上げた曲はデモから、やや外れてしまったと監督は感じ、再録音をしてほしいとのことでした。

ピアノ録音用にOC818を2本買っていて、録り直しのときにもそれを使いました。

私たちは、この再録音にどう取り組むか何度か話し合いました。あるとき、監督はこの映画が彼にとってどんな意味を持つかを語ってくれました。とてもありがたかったのですが、この話を聞いてさらに作るのが難しく感じました。自分には分かり得ない誰かの感情をどのように表現すればよいか。これは習得しえるスキルなのか、不可能な課題なのか?

友人で、腕利きのミュージシャン/プロデューサーに相談したら、そのマイク位置はベストではないと教えてくれました。録音前にちゃんと位置を動かしています。

最初は、映画への自分の解釈を音楽に入れていました。でも、これは関係ないことでした。結局は、録音した音楽の中に監督が不必要だと思う「音」がたくさん入っていた、ということだったのです。11月上旬にもう一度録り直しをして音の調整をしているところなので、この再録音が監督の意図するところに近づいたかどうか、まだ分かりません。プロジェクトやコラボレーションはそれぞれに異なり、音楽的なレベルと人と人とのレベルの双方で実現させていくことが、とても興味深いものでした。

教会の中がかなり寒くなってきた。これからは練習のとき、湯たんぽを持っていこうと思う。

教会の中がかなり寒くなってきたので、これから練習のときは湯たんぽを持っていこうと思います。

家に戻って焼いたパン。

プロフィール

メイ・カーショウ

英国のケンブリッジを拠点とするミュージシャン。ブラック・カントリー・ニュー・ロードのメンバーで、キーボード、アコーディオン、そしてボーカルも務めている。

Instagram
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Black Country, New Road
https://www.instagram.com/blackcountrynewroad/