カルチャー
人それぞれが持つ味わいを、愛するということ。
ソウル出身のオルタナティブロックバンド、87danceにインタビュー。
photo: Daikichi Kawazumi
translation: eli lee
text: Miu Nakamura
edit: Ryoma Uchida
2026年1月31日
多くは語らない、けれど繊細な関係性を綴ったリリック。それを幻夢感のあるメロウなサウンドにのせ、爽やかに歌い上げる。ソウルを拠点に活動する4人組オルタナティブ・ロックバンド、87dance(パルチル・ダンス)の楽曲に病みつきになってしまうのは、ソウルや東京の若者たちの間に漂う今の空気感や時代の雰囲気を丁寧に織り込んでいるからだろう。
2025年9月にリリースした新アルバム 『i love your complex』を携え4度目の来日を果たし、取材前日にはアジア各国のアーティストが渋谷に集結したフェス「BiKN shibuya 2025」にも参加し大活躍中の87dance。そんなメンバーの4人にインタビューできることに。ということで、渋谷を舞台に、最新アルバムを作ることになったきっかけから、最近気になっていること、アジアツアーを終えた後の今後の展望、などなど根掘り葉掘り聞いてみました。ぜひ読んでみて〜。
ソウルと東京、2つの街の“時の流れ”の間で。
ーーーーこんにちは、お会いできて嬉しいです! 日本でのインタビューはほぼ初でしょうか。いきなりですが、ずっと気になっていた「87dance」の名前の由来から教えてください。
BETHEBLUE: こんにちは〜。ヴォーカルやギター、それからシンセサイザーやミキシングなどを担当しているBETHEBLUEです。「87dance」という名前は、2017年当時、僕が当時一緒に住んでいたギターのソンホに「曲作ってみない?」と声をかけたときにできた、最初の楽曲のタイトルなんですよ。BPMが「87」、「dance」はその曲のムードといった具合に、本当にいたってシンプルなものだったんです。が、これが意外にもしっくりきたので、バンド名に採用しました。
ーーなるほど、まさかグルーヴ感だったとは! ノリというか、バンドの楽しげな様子が伝わってきます。
ソンホ: 僕とBETHEBLUEは、同じ済州(チェジュ)島出身なんです。地元には音楽をやっている人たちがよく集まる公園…….というか、溜まり場があって、昔はそこへ遊びに行っていたんです。その時点では、まだ一緒に何かしていたというわけではなく。というのも、僕はそのころバンドを、BETHEBLUEはヒップホップをやっていて、音楽性が違ったわけです。だけど、その後お互いにソウルへ拠点を移したとき、意気投合してたまたま同じ家に住むことになった。そこから2人で音楽を作り始めるようになり、ドラムのジョンヨルやベースのジュニョンも加って、今に至ります。
ーー徐々にメンバーが増えていき、現在の形となったのですね。現在に至るまで、音楽的にも少しずつ変化していっているのでしょうか。
BETHEBLUE: そうですね、僕たちはローファイ・オルタナティブロックを根底にしていて、聴き心地の良さをとても重要視していたんです。でも、活動を重ねていくうちに、ライブの中でファンの方々と作る“雰囲気”にも強い魅力を感じ、最近はアップテンポで一緒の空間にいて盛り上がるような楽曲も作っています。
ーーライブでの臨場感は、やはり格別ですよね。来日公演は今回で4度目とのことですが、いかがでしたか。
ジュニョン: 日本でのライブは、年齢層が多様で面白いです。一昨日、大阪のレコードショップ『FLAKE』で開催したインストアライブでは、僕らとして初めてのアコースティックスタイルに挑戦してみたんですが、それも楽しかった。それから、昨日はアジアの各国のアーティストが一堂に会した「BiKN shibuya 2025」というフェスに参加しました。道玄坂にある複数の会場で同時にライブが行われていて、まさに音楽好きが集まる渋谷のイメージそのもの。すごく面白く貴重な体験であり、いろんなお客さんが来てくれるからこそ味わえた空気感でした。
11月30日(日)に開催された「BiKN shibuya 2025」。出演者には、OASISやGREEN DAY、FOO FIGHTERSとの共演も話題だっおとぼけビ〜バ〜や、中国に続きオーストラリアでのツアーも控えるロックバンドのDYGLなど、日本からはもちろん、タイ、韓国、中国、アメリカ、台湾、インドネシアなどさまざまな国から来日したアーティストも集った。
ーー東京といえば、以前『青色東京』という曲もリリースして、東京でMVも撮影されていましたね。みなさんにとって、東京とソウルはどんな街のイメージなのでしょうか?
BETHEBLUE: 僕が思うソウルの象徴は、街の中心を東西に流れる漢江(ハンガン)という大きな川。東京は、渋谷を思い浮かべます。人自体は似ているように感じますが、雰囲気が異なるように思います。“時間の流れ”が違う。ソウルは1週間という単位で人が動いているような気がする。とにかく平日は「仕事・仕事・仕事」というムードが強く、週末になるとみんな漢江のほとりにある公園に集まるんです。東京は、ずっと「仕事」というよりも、1日の中に変化があるように感じました。朝、渋谷から電車に乗ると、みなさん仕事のためにキチっと決め込んでいますが、夕方ごろにはすごく華やかになっていて。そうやって一日の中で変化していくギャップがすごくかっこいいです。
ーーその視点はありませんでした。そんなソウルと東京を曲で例えるとしたら、それぞれどんな曲を選びますか?
ソンホ: ソウルには、’90年代を代表する韓国の国民的歌手、キム・ゴンモさんのバラード曲『ソウルの月』を選びます。
ソンホ: 東京だったら松原みきさんの『真夜中のドア〜stay with me』がぴったりな気がします。
ーーちなみに、みなさんはいつもソウルで何をして遊んでいるんですか?
BETHEBLUE: 普段からとてもよく会っているので、特別遊ぶってことはあんまりないような気がしますが、公演後にコーヒーや食事へ行くことが多いです。あと、みんなの誕生日には必ずお酒で乾杯をしますね。
ーー最近のハマりごとも、ぜひ教えてください。
ジョンヨル: 最近だと、走り屋をテーマにした『頭文字D』や『AKIRA』など、日本のアニメ作品をよく観ています。いつも何か面白そうな作品はないかチェックしているんですよ。日本関連でいうと、伊坂幸太郎さんの小説も最近読みました。
ーー楽曲制作にインスピレーションを与えた映画や本などの作品はありますか。
ジョンヨル: 2番目のEP「Virtual Love」は、ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』という映画作品を観て、すごく影響を受けました。色彩やストーリーの構成も本当に素敵だし、何より夏の映画なのに、なんだかすごく寒そうに見えるんですね。その独特な雰囲気を表現したくて、歌詞やメロディの制作時には意識しました。
BETHEBLUE: 僕は新しいことをしたときに、すごくインスパイアされます。それもあって旅行が好きなんだと思いますが、沖縄を訪れたときには、サーフィンにパラセーリング、スキューバダイビングとできる限り全ての水遊びに挑戦してみたんです。そのときの印象的な思い出から、初めてのEPも作りました。
コンプレックスさえも愛している、ということ。
インタビュー中に、『タワーレコード渋谷店』6階のレコードコーナーをディグ。「いつもRADIOHEADの’90年代の名作アルバム『OKコンピューター』の、特に2曲目『PARANOID ANDROID』のギターのサウンドがとても不思議で、つい何度も聴いてしまう」というソンホさん。「運転中にマキシマム ザ ホルモンを聴くのにハマり中」だというジョンヨルさん。
ーー9月に発売したアルバム「i love your complex」は、今の87danceにとってどんな作品となっているのでしょうか。
BETHEBLUE: 演奏的なポイントがすごくあるアルバムだと思います。制作過程で、メンバーそれぞれにすごく成長があったんです。演奏スキルも上がったし、これまでの自分のやり方にこだわりすぎず、他のメンバーと共有しながら作りました。
ジュニョン: 僕たちのアルバムの中で一番カラフルなアルバムになっていて、いろんな色や味わいを含んでいます。曲を順に聴いていくとその良さがさらに伝わるよう、いつもこだわっています。
BETHEBLUE: アルバムでは、さまざまな「コンプレックス」が生まれる瞬間を、死神の視点から描くことからスタートしています。韓国では、「死神(사신)」という単語には、「人の内面の暗い部分」や「恐怖、抗うことのできない力の象徴」といったニュアンスも含まれていて、各楽曲では一つひとつ、その心を解きほぐすよう歌詞が紡がれています。
ソンホ: 特に、アルバムの最後の『everything’s okay』という曲は、死に関する題材を物語のように仕立てていて、僕らの言葉がより強く伝えわるのではないでしょうか。病床に伏せた老人が、迎えに来た死神に孤独や劣等感などの心内を語り、死神は命を奪うことを躊躇ってしまいます。ですが、老人は死を待ちながらも「everything’s okay(すべて大丈夫だ)」と自らに言い聞かせ、最後には死神に「迎えに来てくれてありがとう」と感謝を伝え、静かに旅立っていきます。
BETHEBLUE: 人生の中で直面するであろう複雑な心の声に対し、「どんな状況であっても大丈夫、僕達はあなたのそんなコンプレックスさえも愛してるよ。だからこそ、まずは自分自身を愛し、もう少し自分に優しくしてほしい」というメッセージを伝えたかったんです。
フロアを散策していたら、インタビューの前日に開催されたフェス「BiKN shibuya 2025」の特設コーナーを発見。87danceの楽曲もピックアップされており、淡い水色が目を惹くアルバム「Soldout smile」のレコード版も。現在韓国では売り切れており、超貴重なんだとか。「これを今韓国で買おうとすると、18,000円くらいします(笑)。」とBETHEBLUEさんがこっそり教えてくれた。
ーーコンプレックスをテーマにアルバムを作るというのは、自分自身の悩みにも向き合いながら制作をすることもあるかもしれないですね。
BETHEBLUE: 小さいことから大きいことまで、自分が持っている不足感や隠したい部分というのは、たくさんあるじゃないですか。そういった部分を楽しい方向へ持っていきたいなっていう意識があったんです。
大阪でブラインドサッカーの世界大会をたまたま観戦したのですが、そのときの出来事にとても胸を打たれたんです。視界の制限をものともせず、試合中は何度もチームメイト同士で励まし合い、得点すればアイマスクを取り外してみんなで一つになって喜び合う。ハイレベルな戦いでした。選手たちのありのままの姿がかっこ良くって、そこでの気付きをきっかけに今回の7番目のアルバムを作ることにしたんです。
ーーそのとき得た、ありのままを愛することの大切さや楽しさというのを、今度は音楽にのせて伝えていくんですね。
BETHEBLUE: そういうふうになるといいなと思っています。アルバムのタイトル曲である『Beautiful Complex』には、釜山で公演を行った際にファンの方々に歌ってもらった声が入っているんです。メロディを伝えて、iPhoneで録音し、楽曲に使用しました。僕たちの音楽を聴いてくださっている方々とも手を取り合って作っていくことで、新たな楽しさの輪を広げていきたいと思ったんです。
ーー今まさにアジアツアーの真っ最中で、国を超えその輪を広げていっている最中なのではないでしょうか。
BETHEBLUE: ツアーが終わったら、訪れた国々の雰囲気が入ったアルバムを作りたくなると思います。デモはたくさんあるし、みんなでこういう音楽を作ろうっていう話はしているんですけど、きっとこれから新しい発見や出会いがあるはず。そういったことを見つけつつ、これからの作品に活かしていきたいです。
インフォメーション
87dance
ぱるちる・だんす|韓国・弘大を中心に活動する、BETHEBLUE(Vo/Gt/Synth)、パク・ソンホ(Gt)、イ・ジョンヨル(Dr)、チェ・ジュニョン(Ba)による4人組オルタナティブロックバンド。2017年に結成し、2019年には1st EP「Palchilldance」でCDデビュー。以降、数々のEPとシングルアルバムを発表し、2025年9月には2ndアルバムとなる「i love your complex」をリリースした。
Instagram
https://www.instagram.com/palchilldance/
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