TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】Everyday Common Crafts
執筆:川口涼子
2025年12月21日
民話、民芸、民家、民具、民謡……。とにかく“民”のつくものが好物です。
歴史の授業では、戦争や条約といった政治史より、人々の食事や信仰、娯楽といった日々の営みから生活様式が見えてくる社会史のほうがずっと好きでした。映画も、非日常のハラハラドキドキももちろん楽しいのですが、後々記憶に残るのは、サンドイッチを作る場面やトランプをするシーンなど、ごく普通のひとコマだったりします。物語の本筋からちょっとそれた、ほっと一息つける日常に目が行ってしまいます。
職人さんがつくる民芸も大好きですが、とりわけグッとくるのは、日々の暮らしに紛れている手仕事です。民芸館にはまず並ばない、もっと素朴で、“平民芸”とでも呼びたくなるようなものたち。区民館の棚や教会のバザーに、気負いなく置かれている、編んだ人形やリメイクのポーチ、竹とんぼなど。作者は匿名なのに、妙にキャラクター性がにじみ出ている手作りの品です。買ったことはまだ一度もないけれど、つい見入ってしまいます。
今ほど受け身の娯楽がなかったぶん、昔の人たちは、こうした小さな手仕事でもっと創造的に暇を潰していたように思います。ある日、実家の整理をしている時に出てきた、祖母や曾祖父母の手づくりの品々。日常のささやかな手工芸は、ほかの家の押し入れにもきっと静かに眠っていると思うと、見てみたいような気もするし、そのまま日の目を見ないでいて欲しいような気もします。
そんな折、ある展示で、17世紀ヨーロッパで少女たちが刺繍や繕いを練習・記録するために布に刺した「サンプラー(見本帖)」に出会い、すっかり心をつかまれました。本人たちは、まさかこれが博物館に並ぶとは思っていなかったでしょう。その地道な布片に触発され、私も母が昔使っていた刺繍糸とリネンを引っ張り出し、針を手に取ってみました。はぎれだったので、作れるのはコースターくらい。まだ英国にいた頃のことなので、もちろんティータイム用です。イギリスのおばさんやおじさんが口にしそうな紅茶まわりの言葉や、お茶のお供のビスケットの銘柄を、古本屋で買った図案集を参考にステッチしていきました。
イギリスの硬水は紅茶に、日本の軟水はコーヒーに合うのか、帰国してからは自然とコーヒーを飲むことが増えました。そんな中、久しぶりにテレビドラマ『ツイン・ピークス』を流していたら、登場人物がとにかくよくコーヒーを飲むもので、気づけばストーリーそっちのけで、コーヒーやドーナツ、パイを味わうときのセリフばかりを追っていました。それらの言葉を拝借して、今度は“コーヒータイム・コースター”を作ってみることにしました。
しばらくのあいだ、これが私のささやかな“平民芸”になりそうです。
プロフィール
川口涼子
かわぐち・りょうこ|1978年、イギリス生まれ。建築家。ロンドンを拠点に学校や図書館、区役所、遊歩桟橋など公共施設のプロジェクトを中心に活動したのち、2024年に帰国。現在は住宅設計や古民家再生に携わりながら、次のステップを模索する日々を送る。好きなものは食、散歩、図工、手芸、本棚鑑賞、そして犬。
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