TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】ダンボール社会学からみた日本

執筆:織咲誠

2025年12月9日

 ある日のInstagramに、こどもがダンボールの車で運転遊びをしている動画が流れて来ました。ママさんパパさんとこどもは、「私たちも~!」と、工作チャレンジして……出来た~!→いよいよ乗車! → ペシャ……動くどころか、魂が抜けるほどふわっと気持ち悪く潰れました。

 これは私、ダンボール社会学者・織咲誠の予見ストーリーですが、「日本では乗って遊ぶ車」は普通に誰がやってもデ・キ・ナ・イのです! ではなぜ動画では動いてるのかと言うと、生成AIでもフェイク動画でもなく素材が「米国のダンボール」だから。強度が圧倒的に優れ、ネジが打てるほどのそれらが日常で沢山あります。ダンボールからみても米国は世界一と言えましょう。やはり、「可能性の差」がそもそもあるのです。ダンボールは国力を象徴しています。

 国力や豊かさを測るにはGDPなど様々な指数がありますが、今一つ実感がつかめないですよね。「豊かさ」にもそれぞれの考え方があります。個人的な評価基準としての豊かさとは──未来をつくるための”可能性指数”──という捉え方をしています。「種と土壌」を考えてみれば良いのかもしれません。多様を育み、おおきく成長させる可能性に満ちた環境。くらしの足下とも言えます。そして、次の豊かさにつなげてゆく「未来資源」は、こどもの創造性にあると思います。

観察と気付き「素材の見極め方」ワークショップ。 ダンボール以外にも、一生涯使える選択眼が開かれると人気。わからないからこそ直感を信じれば良く、私が世界一のダンボールと評価しているタバコ「マールボロ」の輸送箱を指さしている人が多いのも不思議。硬さ(強度)、薄さ、肌理のナチュラルさにおいて、世界最強なのです。ちなみに、2番目に選択した方が多いのはミネラルウォーター「コントレックス」(仏)のもので2番目によい素材なので、これも当たり! 直感の持つ力を体感・覚醒して帰るWSです。

 ダンボールは世界中どこにでもあって、ほぼ「無料」で入手できる不思議な素材です。石や土をそこそこ勝手にもらおうとすると怒られたりする場合が多いので、この無価値状況はある意味、宝の山。AI時代が叫ばれる中にあって「無価値から有をうむ」という創造性を鍛える道場としてのダンボールは、貧富に関係がなく、誰にでも開かれた民主的な素材だと思いませんか? この特別視無き偏在さが、世界各地の──素材の質、コストへの考え方──の観点として使え、先述した「可能性指数」を読み取るダンボール社会学として考察を重ねています。

──こども×ダンボール×道具──「世界一美しく折曲げる!」ハンドツール・or-ita(オリタ)の開発・販売をはじめて15年。毎日ダンボールに触れ、街を歩けばダンボールに目が泳ぎ、お持ち帰り。海外の旅に出ればもちろん、連れて帰る日々。それは、or-itaが全世界のダンボールに対して加工できる刃先の数値設計をするためでした。

 ダンボールに向きあった人生のなかで特技になってきたのが、指先で触れた瞬間に、どの地域(大陸)産のダンボールかがわかる利き酒ならぬ「利きダンボール」。暗闇でも、米国・カナダ、日本、ヨーロッパ……とほぼわかり、別次元でわかりやすいのはインド産。リサイクルの根本から違いがあるからです。中国はちょっと難しくて「紙色」を見ないと最終判断がつきません。その理由は最高グレードから最低級の「幅」があるからで、中国社会の今をあらわしているようにも感じます。言うなれば、多様性と選択肢があり、勢いある国情がそこに。日本は、残念な事に【中の前・後】しかなく多様性がまったくありません。冒頭の残念物語の要因がここにあります。  

「揃って、おなじものをつくらない!」。三角シートは全員同じでも完成は全員ちがってくるワークショップ(小豆島 2013) Or-ita + S|オリタス。正三角形グリッドを折り曲げて造形する知育遊び。

産業は急には変えられないから、せめて「選ぶ目・見極め」を育て、より優れたものを求める態度を覚醒させるワークショップ。
ダンボールを切っ掛けに「抽象」化の優れたところを小学生と導き出す試み。三角形を使ったおもちゃづくり→ダンボールの断面から「三角形の発見との抽象化」→三角形を身体で感じる造形が盛りだくさん。あと30分かければ一挙に結晶化しそうなところでタイムアウト。思考から形になるまではやはりそれなりの「時間」が必用なことが発見・再認識出来た。「ななめな学校」2020 (千葉) https://naname.school/report/v4/hasso-jump/

 ダンボールの「可能性指数」から日本を評価すると、残念ですが世界最下位になってしまいます。コスト削減のし過ぎで「豊かさ」「美しさ」を感じないものがほとんどで、社会を元気に明るく美しくするための一翼を担う文化意識の希薄さは絶望的なほど。削りすぎては、社会が貧弱になります。唯一の希望の灯はみかん類の箱、キューピーマヨネーズの流通箱にあるのですが、この詳細は別な機会に譲ります。

noteにて、『Line Works』–「線の引き方次第で、世界が変わる」/ ダンボール社会学……準備中……。
https://note.com/line_works

箱の抜き型用(トムソン刃)が約100m渦巻き状に入っている箱。
・〈日本 vs オーストリア〉→グラフィック、色数に差が。
・「ただの箱 vs 機能する形の工夫」
・「中央の浮きをテープで留める vs フック&取り出し易さの中折れ線式」
・「商品管理にバーコードが無くてどう管理してる?まさか人力? vs 管理標が箱の封かんを兼ねている」
「差し込み易さの追求の形」心配りのデザインの存在の有無。時間とコストのかけかたの大差。同じ業界、同じカテゴリーの箱を比べてみれば民度のような文化度が浮かび上がって来る。 

ルノー(仏)自動車部品の美しすぎる箱。特筆は、管理シールが多色、しかもパール・インキ(キラキラ)を使っている贅沢さ。日本車各社の箱はコスト優先で当然単色。自動車工場は暗く汚れがちな空間なので、必要なコストをケチらないことで、在庫品・箱の壁が明るく華やぐ効果あり。「花を飾るように」元気をもらえる箱があるとどうでしょう? 暮らしの細部に美しさを感じるたのしみが社会全体をイキイキさせることを理解してると感じる。会社コストから社会コスト……世の中全体の美や華やぎを考えたコスト意識の存在をみる(織咲の仮説ですが)美の共創・協奏を感じませんか?

 しっかり「必用なコスト」と時間もかける社会と「コスト削減」がすべて善で先急ぐ社会……どちらに「豊かさ」につながる可能性をみますか? 評論ばかりでは世の中変らないので、私は社会実装・実験としての「hug-Box♡プロジェクト」を進めていきます。ぜひ応援、ご注目いただけたらうれしいです。

プロフィール

織咲誠

おりさき・まこと|インターデザインアーティスト/ダンボール社会学者。ダンボールを自由自在に加工する道具「or-ita(オリタ)」を作った開発者であり、「線の引き方次第で、世界が変わる」という“結びつきの関係”のリサーチと実践を行う。手掛けた商品の数々が世界で特許登録され、「自然力を取り込む知恵」「物質量やコストにたよらない」利を得るクリエイティブ『理り派』(ことわりは)を提唱する。2021年、アートの領域に軸足を戻し、「統合クリエイティブ」をテーマに活動中。近年は個展「hug-Box♡」をはじめ、アートとデザイン双方の根原にあるはずの共通や統合の美を求めて、ものごとの「間」を探る長旅を続けている。