TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】レシピとエッセイの本「うまっ」制作秘話

執筆:原 太一

2025年12月6日

そこからはさらに加速して個別にフィジカルやオンラインで企画の説明をしながら皆と話したり、インタビュー形式の人にはインタビューをしていった。
内容は「料理を食べる=美味しい」というものに「Something(何か)」がくっつくと
もっと心の内側から自然と湧き上がる「うまっ!」となるのではないかという仮定の元、
あなたにとっての「食」や「Something」について書いてほしいというものである。

執筆スタイルもインタビューの場合でも皆さん個性があってとても面白いものばかりだった。

森田剛さんのページは打ち合わせでは剛さんと娘さんへのインタビュー形式で場所はLIKEでやろうとなっていたのだけれど、インタビューの当日、剛さんがLIKEに着くなり「もう素材とってきた!笑」とイタズラな笑顔を見せて席についた。
「どういうことですか?」と聞いたら来る途中の車の中でさりげなくLIKEの話を振って話した会話を娘さんには内緒で録音をしていたのだと!笑
なんてユーモアと機転の効く人なのだと驚いた。
そんな生の会話の一部が本に掲載されていて、読み進めていく時のいいアクセントになった。

建築家の田根剛君は中学生の時に同じサッカーのクラブチームの先輩だった。
当時の田根君は見た目もカッコ良くて、サッカーがチームで1番上手くて、
それでいて性格が優しいという憧れの先輩という感じの人だった。
そんな田根君には当時よくイジられていた記憶があるが、それがなんか誇らしく、だからこそ安心して甘えられる人だった。
今回も甘えさせてもらっても大丈夫だろう!優しいし!と安易な考えで連絡をした。

思った通り久々に会った田根君は当時と全く変わらず、甘えを受け入れてくれた。
人の話を真剣に聞きながら、相手の要望の本質を見ようとしているかのように、
「こういうことか?」とか「こうでいいのか?」と丁寧に確認をしながら話を聞いてくれた。
田根君の建築はその土地の環境や歴史などを徹底的に調べあげながら、膨大な量の情報のパーツを拾い上げて形にしていく。
そんな論理的であり、本質を見抜くような人の文章は少し抽象的な感覚が混じっていて意外な感じがしたが、建築というのはきっと何も無い空間に物質的に建物を建てるだけで無く、そこでの人の過ごし方や、環境の変化など考慮しないといけないのだろうし、論理や構造などだけでなく想像力や感覚的な能力も必要なのだろう。
そう考えるとすんなり腑に落ちた。

撮影の合間の一服。
一服の時間が長いチーム編成。

そんな感じでエッセイを進めながら、同時にやることはまだまだある。
本の最終的なサイズや紙質などの仕様、写真の選定、色味の調整、誤字脱字の確認、レシピにおかしな点はないかの確認など、気が遠くなるような作業を詰めていく。

しかし今回は頼れるチームがいるし、基本的には任せるスタンスだったので自分は最後の最後のこれで大丈夫か?や、これとこれのどちらがいいか?などの判断をすれば良かった。本来自分がやらなくてはいけないレシピの部分も編集チームが気を利かせてこれ間違えてないか?など自分が見落としているところをピックアップしてくれたりと、痒いとこに手が届くというか、これやってくれると助かるなぁーというところを先回りでやってくれる感じで、編集チーム、出版チーム、デザインチームと頼りまくったので疲れ切っていた「判断」や「決断」は最小限で済んだ。

デザインチーム「白い立体」のTさんは柔らかい物腰とは裏腹に、最初からデザインに関してのこだわりは会話の中で節々に感じていた。
本のサイズを決める際、最後まで決めかねていた2サイズから選んで決めたいと要望を出していた。
ほんの数センチの些細な違いの2パターン、実際の本になった時の想定の形にしてA案B案と2パターンのサイズ違いのサンプルを作ってプレゼンしてくれた。
A案のサイズは「海外の本とかで使われたりするサイズで〜〜」とか「日本ではあまり見ないサイズで〜〜」、B案のサイズは「これはよくある定番のサイズで〜〜」とA案とB案のプレゼンの熱量が全然違って、「それA案以外選択肢ないじゃん!笑」と突っ込んでしまったほどなのだが、きっと自分の疲れ切った「判断」「決断」を減らしてくれたのだと思う。笑

約1年半かけて、じっくりと丁寧に作った「うまっ」。
ぜひ実際に本を手に取って、様々な国を旅して生まれたレシピと各界きっての表現者のエッセイとこだわりのサイズ感(Tさんの)を楽しんでほしい。

「うまっ」リリースパーティーでのライブの模様。
執筆者のコムアイとアオイヤマダ。

プロフィール

原 太一

はら・たいち|1981年、東京生まれ。学生の頃、音楽や家具、デザインなど総合的な演出にこだわったカフェカルチャーに影響を受ける。その空気感とレストランのように美味しい料理を提供するお店を作りたいと、料理の道へ。大学卒業後、レストランやビストロでの経験を経て、ミシュラン二つ星を獲得した『キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ』で修行する。現在は、2011年にオープンした渋谷の『BISTRO ROJIURA』や2015年に後藤祐一氏と開いた代々木八幡の『PATH』、2019年からスタートした多種多様な音楽と中国料理をベースに多国籍な料理をサーブする『LIKE』のオーナーシェフを務める。また店内にあるステージで不定期開催している「LIKE SOUND」をYouTubeで配信。さらに自身がプロデュースする家具ブランド「Haa Jime Studio」も運営している。

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