TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】本=考えを入れるいれ物

執筆:エーブルソン友理

2025年12月3日

「霧の中の展望台 Viewpoint in the Fog」

「霧の中の展望台」の本づくりが終わりに近づいた頃、イルマ・ボームが、「本は、考えを入れるいれもの(a book is a container of thought)」と言っているのを聞いて、自分達の考えは、この一冊のなかに自分達らしく収まっているだろうか、と不安になりました。

本をつくる過程は、プロダクトや展示をつくることによく似ていますが、より自分たちの内面と向き合うことが必要でした。

本の中に出てくるオレンジを包む紙やシリカゲル、掃除機の袋などは、デザインの資料として集めたものではなく、単に自分が気に入って集めていたものです。

頭のなかに浮かぶイメージを、そのまま紙にバサっと落とし込めたらいいのに、気がつくと力が入り、整えようとしてしまいます。 

“答え”がきれいに詰め込まれた本ではなく、あえて語りすぎない部分を残したり、レイアウトもどこか未完成に見えるほうが、今の自分たちの感覚に近いと感じました。そうすることで、読む人が自分の考えを巡らせる余白も生まれるのではないかと。

先が見えない霧の中に立っているような感覚を抱きながら、はっきりしない思考や小さな疑問が少しずつページににじみ、読み手の中でまた別の形へと変わっていく。

そんなふうに、この本がつくり手の思考の「いれ物」であると同時に、読む人の中で自由にかたちを変えていける「いれ物」になっていたら良いと思っています。

みかんの皮が房を包むように本は、思考を包み込みます。

プロフィール

エーブルソン友理

エーブルソン・ユリ|1971年、東京都生まれ。学生の頃にヨーロッパやアメリカを転々とし、カリフォルニアのパサデナでマイク・エーブルソンと出会い、2000年にNYブルックリンにて〈ポスタルコ〉を創業。以来、自社のブランドコミュニケーションを中心に、グラフィックデザインの仕事をしている。2児の母でもある。好きな映画は『freaks』 (1932年) 、好きな漫画は『魔太郎がくる!!』、著書に『霧の中の展望台』『水たまりの中を泳ぐ』がある。現在、『Atelier Muji Ginza』にて展示「PAPER TRAIL – Everything Is a Prototype for the Future」(〜11/24まで)を開催中。

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