TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】こゝろのベースキャンプ

執筆:手塚日南人

2025年11月30日

社会人になってから、気がつけば7年ほど北海道に暮らしていた。
不思議なご縁に導かれ、仕事が決まり、「憧れの田舎暮らし」は実現したのだった。

都会で生まれ育った自分にとって、田舎に住むことはひとつの夢だった。
ただ、それは隣の芝生のようなもので、実際に暮らしてみれば大変なことも多い。
きっと地元の若者は、反対に都会への憧れを抱いているのだろう。

北海道へ来て、
「こんな田舎によく来たねぇ、ここにはなんもないっしょ」
とよく言われた。
田舎あるあるかもしれない。

一人、素敵な地元女性がいた。
「私は地元の自然が好きだから、ずっとこの土地にいたい」
理由は聞かなかったが、彼女はそう言った。
僕はその言葉に、驚きと共感を同時に覚えた。

そうだ、ここにはちゃんと立派な大自然があるじゃないか。

東京へ戻ってからは、「北海道?いいねぇ。私も住んでみたいけど、雪がねぇ」とよく言われる。
確かに雪は大変だ。冬になれば雪かきは欠かせないし、列車もよく停まる。
不便さは多い。
でも、その不便さがまた良かったりする——と話しても、なかなか伝わらないかもしれないが。

昔、『豊かさの精神病理』という本を読んだことがある。
高校生の頃の記憶なので曖昧だが、物質的な豊かさの影で人が心を病む現代を批判した本だった(気がする)。

モノが少なかった時代。
自動車も飛行機も珍しかった頃。
人々は限られた資源を分け合い、助け合いながら暮らしていたはずだ。

それがいまや、一人一つの消しゴム、一人一つの部屋、一人一台の車・スマホが当たり前に。
“ひとり”の時間がどんどん増える。
他者と関わらなくても成り立つ暮らし。
この本では、それが現代の精神的不調の大きな要因として語られていた。

一方で、大自然を相手にすると、協調が欠かせない瞬間が多い。
雪かきだって、一人より二人、二人より三人の方がいい。
薪割り、木を運ぶこと、畑作業……どれも助け合った方が早いし楽だ。

明治期の開拓民の話に戻るが、彼らは入植初期、「拝み小屋」というテントのような小屋で暮らしたらしい。
しかも、それを現地の人に教わりながら自分たちで組み立てていたという。

いわゆるDIYだ。
その場にあるものを生かし、自分の手で暮らしをつくる。
生活の知恵を共有しながら命をつないでいたのだろう。

自分を生かし、迷惑をかけ合いながら、一緒に暮らす。
それが当たり前なら、「迷惑」という感覚自体、今とは違ったのかもしれない。

重機を使わず、馬と共に木を切り出す人々。

そんなことを考えながら、十勝滞在の最後には小屋づくりのワークショップに参加していた。

白老町にいた頃、アイヌの方からクチャ(狩猟用の仮小屋)の建て方や、オランダで茅葺き屋根の技術を学んだことがあったので、今回は自分が講師役となり、その知恵を共有した。

木材は近くの林業家さんの山で間伐させてもらい、
茅は河川敷で調達。
しめ縄や麻紐はホームセンターに頼ったが、できる限り自分たちの手足を動かして小屋を組み上げた。

昔の人も、手に入るものは近場で集め、どうしても必要なものだけを買ったり交換したりしていたのだろう。

試行錯誤の末に、拝み小屋を再現していく。

ハイテクでもなんでもないが、立派なベースキャンプができあがる……はずだったが、茅が不足して完成には至らなかった。
しかし屋根は完成した。
雪が積もることでさらに保温性が上がるはずだ。

近場で集めた茅を葺いていく。梯子も手作り。

作業しながら、企業研修のチームビルディングを思い出した。
同じ目標に向かって黙々と手を動かすと、不思議と距離が縮まる。
そんなことを考えているあたり、やっぱり自分は現代人だなとも思う。

未完成の小屋を眺めると、なぜかほっとした。
“もう少しで住めそうな場所”がそこにあるだけで、十分なのかもしれない。
北海道で、またひとつ帰りたくなる場所が増えた気がした。

4回のコラムはこれで一区切り。
続きは、いつか映画館で味わっていただけたら嬉しい。

写真(2枚目以降):逢坂芳郎 提供

プロフィール

手塚日南人

てづか・ひなと|1995年生まれ。東京都出身。早稲田大学在学中にスペインへ留学。帰国後、アイヌ文化を探究するため2018年に北海道へ移住。森林ガイドや映像クリエイターを経て、倉本聰監修•富良野グループ公演『悲別2023』で舞台デビュー。

主な出演作に、渡辺えり古稀記念連続公演『鯨よ!私の手に乗れ』『りぼん』、イクルィ公演『眠レ、巴里』(脚本:竹内銃一郎、演出:鈴木一希)ほか。

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