カルチャー
ウェス・アンダーソンの好きな21世紀の映画。
WES ANDERSON
2025年11月16日
ウェスのデビューは’90 年代、テキサス大学時代の同級生であり親友のオーウェン・ウィルソンと共同脚本を書き、自ら監督し’96 年に公開された『アンソニーのハッピーモーテル』。けれど世界的な成功と名声を収め、ハリウッドの新星にして、独自の映像美とオフビートな作風で唯一無二の存在として認められるようになったのは2001年に公開された『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』から。以来2年に1本くらいのハイペースで、作品を発表し続けているウェスは、アート性と商業性を兼ね備え、アカデミー賞やベルリン映画祭での銀熊賞などを取りまくる、他に誰も存在しないような地位を確立してきたのだ。生粋の映画オタクで、過去の名作へのオマージュも多いウェス。映画を撮るときは、キャストの俳優たちが泊まるホテルにDVDライブラリーを設け、その作品に役立つ過去の映画たちをやんわりと強制的に鑑賞を勧めたりもするんですよ。僕にはたくさん映画監督の友達がいるのだけれど、だいたいみな過去の名作に話が集中する。そんな中でウェスだけはいつの時代か関係なく、映画を観まくっている。年間365日、映画のことを考えていて、心配することは死ぬまでに自分の頭にある映画のアイディアを全て形にできるかだけ。そんなウェス、インタビュー嫌いのウェスが、今回ポパイ読者のために2001年以降の観るべき映画を教えてくれた。書くのが面倒だったみたいで、動画で送ってきたのだけれど(笑)。色々と社会の仕組みが変わり、サブスクで映画が観られたりと、映画を取り巻く環境が大きく変わったこの25年間。ウェスに何か変わった? 自分の映画作りに変化はあった? という質問には「?」という感じで答えがなかった。「映画は映画さ、僕はただ作りたいものを今まで通りやるだけだよ」、きっとそういうことなんだよね? ウェス。
21世紀のウェスの映画。
天才一家テネンバウム家の崩壊と再生を描いた喜劇。ビートルズやニコ、エリオット・スミスの名曲が物語を彩る。端正なオープニングに痺れる。
ビル・マーレイ演じる海洋探検家ズィスーの冒険譚。コワモテですぐ拗ねるウィレム・デフォーが可愛い。脚本にはノア・バームバックが参加。
病弱なのに向こう見ずな3兄弟のインド珍道中。ゆるいロードムービーながら、またしても歪な家族の姿が描かれる。カメラワークがグルービー。
ウェス史上初の全編コマ撮りアニメ映画。キツネ親子の冒険譚であり、動物対人間の戦争史でもある。すぐ目がグルグルするオポッサムが愛しい。
12歳の少年少女が繰り広げる恋の逃避行。微笑ましくロマンチックな旅路かと思いきや、無視できないバイオレンスが時折挟まれ、すこぶる愉快。
格調高いホテルの伝説的コンシェルジュ&ベルボーイのタッグが陰謀に立ち向かい疾走するミステリー調コメディ。物語の入れ子構造が胸を打つ。
ドッグ病が流行し、犬が本土から隔離された近未来の日本で、愛犬を探す少年とそれを手助けする犬たちの話。画面の情報量がもう異常!
架空の雑誌をオムニバス映画化した、いわば「観る雑誌」。カラーと白黒の混在や写真のレイアウトが映像に落とし込まれ、雑誌好きには垂涎もの。
荒野の小さな町にUFOが飛来し大騒動……というこれまた架空の舞台を映画化。隕石が盗まれるシーンが最高。クライマックスの仕掛けもクール。
『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』’25
6度の暗殺を生き延びた大富豪が、一人娘を連れ資金調達の大冒険。眩暈がするような急展開の中、突然始まるバスケの試合や大人の殴り合いがとにかく面白い。全国公開中。配給:PARCOユニバーサル映画
Courtesy of TPS Productions/ Focus Features ©2025 All Rights Reserved
まさにこの特集の準備期間真っ只中に封切られたのが、ウェス・アンダーソン監督による
最新作『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』。となれば、21世紀の映画の話を
聞かない訳にはいかないと、監督の旧知の友人でもある編集者の野村訓市先輩に相談。
後日ウェスから送られてきたのは、一通のビデオメッセージだった。
こんにちは。ウェス・アンダーソンです。友達のクンに言われて『POPEYE』のためにちょっとしたビデオを撮っています。クンにこう尋ねられました。「2001年以降で、好きな映画はありますか?」と。それについて少し考えてみました。たくさんありすぎて選ぶのは難しいのですが、いくつか紹介しようと思います。
まずひとつ目は『リンカーン』。スティーヴン・スピルバーグ監督、主演はダニエル・デイ=ルイス、私が大好きな俳優です。脚本はトニー・クシュナー。この作品は、おそらく映画史上最も見事なアンサンブル・キャスト(複数の俳優たちが同等の重要度をもつ)のひとつであり、中心となるキャラクターも素晴らしく、そしてその役を演じる俳優も最高なんです。
次に思い浮かんだのは『オール・アバウト・マイ・マザー』。スペインのペドロ・アルモドバル監督の作品の中でも、たぶん私が一番好きな映画です。素晴らしい演技が多く見られます。特にマリサ・パレデス、彼女は昨年亡くなってしまいましたがとても印象的でした。アルモドバル作品の中でも脚本が特に優れていて、本当に素晴らしい映画です。
それから『ノーカントリー』。コーエン兄弟がコーマック・マッカーシーの小説を脚色した作品。彼らの映画の中でも特に好きな一本です。あの兄弟は人を怖がらせるのが本当にうまいんですよね(笑)。
ノア・バームバック監督の『マリッジ・ストーリー』も。彼の映画の中でも最高の一本で、それだけでどれだけ素晴らしいかわかるでしょう。スカーレット・ヨハンソン、アダム・ドライバー、レイ・リオッタ、ローラ・ダーン、アラン・アルダ︱とてもとても素晴らしいキャスト、とてもとても素晴らしい脚本に素晴らしい監督、見事な作品です。
クエンティン・タランティーノ作品の中でも特にお気に入りなのが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』です。初めて観たときはブラッド・ピットの演技に特に感銘を受け、2度目に観たときにはレオナルド・ディカプリオの演技に感動しました。二人とも本当に素晴らしく、タランティーノ映画の中でも最も好きな一本です。失われた時代を鮮やかに蘇らせる作品ですね。
そして最後に挙げたいのは『トゥモロー・ワールド』。アルフォンソ・キュアロン監督による素晴らしい映画で、主演はクライヴ・オーウェン。撮影はエマニュエル・〝チーヴォ〟・ルベツキ︱そして原作はP・D・ジェイムズの小説です。それから最後に、自分たちの映画『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』にも触れておこうかな。
クンがこう日本語で言えといってたように。えっと
「ザザコルド ノ フェニシアケイカクヲ ゼヒミテクダサイ。トテモ オモシロイ デス」
意味はよくわかりませんが、彼が言うならそのまま言っておきます(笑)。それでは『POPEYE』の読者のみなさん、クンの友人のみなさんに心からのご挨拶を送ります。どうもありがとう。
ウェスが選んだ今世紀のベスト映画がこちら。
ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン/2007
ギャングが抗争を繰り広げたテキサスの荒野。死体の山とともに捨て置かれた200万ドルを見つけた狩人のモスは、その大金を持ち逃げしたために、最恐の殺し屋アントン・シガーに追われる羽目になる。普段はふざけっぱなしのコーエン兄弟が、あえてシンプルに見せ切る逃走劇。劇中ほとんど音楽がかからないのも彼らの映画においては珍しい。
Everett Collection/アフロ
ペドロ・アルモドバル/1998
不慮の事故で息子を亡くしたマヌエラは、行方知れずの元夫に息子の死を伝えるため旅に出る。そこで出会うのはレズビアンの麻薬中毒者にトランスジェンダーのセックスワーカー、エイズ患者の妊婦。従来の価値観や制度に囚われない彼女たちと関わり、マヌエラは希望を取り戻す。ちなみに正確には20世紀の映画だけど、ウェスが言うなら!
Everett Collection/アフロ
スティーヴン・スピルバーグ/2012
史上最も偉大な大統領として人気の高いリンカーンの伝記映画。南北戦争下のアメリカで、奴隷制廃止法案の賛成票を集めるために奔走する様子が描かれる。会議室を舞台に俳優陣が繰り広げる白熱の演技は見もの。同年製作の『リンカーン/秘密の書』ではリンカーンが斧を片手にヴァンパイアを狩っているが、本作は誇張を抑えた重厚な作り。
Everett Collection/アフロ
アルフォンソ・キュアロン/2006
子供が生まれなくなった近未来。世界がテロや内戦で荒廃するなか壊滅を免れていたイギリスで、国家官僚セオは地下組織に拉致される。そこでは人類の存亡に関わる計画が進行しており……。劇中何度かワンカット長回しのショットがあり、銃弾の入り乱れる戦場シーンはすさまじい緊張感。飛び散った血糊がカメラのレンズに付着する場面も。
Everett Collection/アフロ
クエンティン・タランティーノ/2019
豪邸にはプール、街中にはヒッピー……。1969年のハリウッドの世界観をタランティーノが変態的なこだわりで再現。ディカプリオ演じる架空の俳優リックと、ブラピ扮する専属スタントダブルのクリフを主人公に、シャロン・テート惨殺事件の「もしも」を描く。当時のカーラジオを再現したミックステープ式のサントラは流し聴きに最適の一枚。
Everett Collection/アフロ
ノア・バームバック/2019
10年間連れ添った夫婦が離婚するまでの過程を丁寧に追う、笑って泣いての会話劇。二人が積み上げてきた時間が、離婚調停のプロセスにおいて「客観的事実」として扱われる様子には胸が痛くなる。ランディ・ニューマンの手掛ける劇伴もさることながら、アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンの繰り広げる口喧嘩が音楽的に響く。
Collection Christophel/アフロ
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