TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】絵かきの里について

執筆:佐塚真啓

2025年10月24日

絵かきの里について。

ここ数年、5人でシェアしているアトリエが少し手狭になってきていた。そろそろ自分の新しい作業場がほしいなと思い、暇なときには不動産屋さんの店頭掲示板やサイトを覗いていた。そんなおり、ふと、アトリエの目の前の崖を登ったところにも古い家があったことを思い出した。家といっても、2014年の大雪の時にぺしゃんこにつぶれてしまっていて、目線より下になった屋根には、草や木がボウボウに生えていて、あと数年で自然に還っていってしまいそうな感じの、面白そうにもほどがある、という佇まいの物件だった。近所の方に相談してみたが、持ち主とは連絡がつかないとのこと。残念だったが、そこはあきらめていた。

それから少したったある日、近所の方から電話がかかってきた。崖上の家の持ち主と連絡がついて、手放してもいいという。喜んだのもつかの間、1つ条件があって、家だけじゃなくて、家周辺の持っている土地を全部いっしょに手放したいとのこと。家が建っている宅地、その前の農地、家の裏に広がる山林、合計すると約1.5万㎡という広さになるという。広すぎて面積を聞いてもイメージがわかなかったのだが、市営の運動場をグルっと囲むような形と、いわゆる宅地・農地・山林が地続きになった里山の要素を凝縮したような土地に魅力を感じた。そして、2025年6月、その土地を購入した。

わかってはいたものの、かなり特殊な物件で、文字どおり問題が山のようにある。荒れ果てた農地。植林して放置された山林。生えすぎた竹林。朽ち果てつつある元鶏舎。ペシャンコに潰れ自然に還ろうとしている母屋。ゴミ屋敷のような離れ家。植物が伸び放題になった庭。どれも、どこから手をつけていけばよいのかわからない。とりあえず、ゴミ屋敷と化した離れ家から手をつけることにした。夏、植物をバサバサ切って、庭の真ん中に大きな穴を掘って、家の天井と床、壁を剥がして燃やした。そして、家の中に箱のような部屋を作った。当初、自分の作業場を探していただけだったのだが、廃材を燃やしながら、ここを「絵かきの里」と呼んで、多くの人と出会える面白いことがおこる場所にしよう!と思いついた。とりあえず、写生教室や写生大会などを企画して、ワサワサの現状を全て最高のモチーフと言いはって、多くの人に見てもらいながら、この場所を整えて行こうと思う。ぜひ、いつか遊びにきてください。

プロフィール

佐塚真啓

さつか・まさひろ|美術家。1985年静岡県生まれ。丑年。おうし座。長男。A型。右利き。2009年武蔵野美術大学卒業。卒業後からは民具などの博物館資料を図化する事を始める。2011年青梅市に移住。2012年友人と共に「国立奥多摩美術館」を企画。「美術」という言葉が色々な物事を考えるときのキーワードになっている。2018年から「株式会社佐塚商事 奥多摩美術研究所」を主宰。2025年から「絵かきの里」を企画。座右の銘は、「来た時よりも美しく」。1日8時間の睡眠を心掛けている。冬はガタガタ震え、夏はダラダラ汗をかき過ごしている。

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