ライフスタイル

家の猫の話 Vol.20/文・ピエール瀧

2025年10月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

猫は権力。我が家ではこの不文律がまかり通っています。例えばこんな感じ。

「テレビのリモコン取ってくんない?猫が膝の上に乗ってるから」、「猫がお腹の上で寝てるから動けない。だからアイスを持ってきて」、「お風呂?今は猫が足の間で丸くなってるから完全に無理」等。

このように、猫を所有してることによって、本来自分がやるべき事柄を回避し、代わりに周囲の人間を無条件で使うことができる特権、それが我が家の“猫は権力”の正体です。人によっては「ただ甘やかしているだけじゃん」と感じるかもしれませんが、言われた側の人間も「そうですか、なら仕方ありませんね」なんつって、素直に従うのが通常です。なぜなら、猫が機嫌よくしている状態を終わらせてしまうのは、なんか忍びないというムードが家族の共通認識だからです。

ちなみに、上記のセリフの全ては娘の口から発せられたものですが、ときに”権力の乱用”だと憤ることもあります。「今猫とくっついてるから、その鮭とばをちぎって口に入れるべし」という暴君スレスレ案件なこともありました。もちろん適切な大きさにちぎって、口の中に丁寧に放り込まさせていただきました。だって猫持ってますからね、彼女、今。

この権力を手にする頻度が最も高いのはやはり娘、次いで嫁。コロッケなんかは娘の帰りを待ち望んでる感が強く、帰ってくると「どこ行ってたん?ねえ?ねえ?」なんつって、嬉しそうにしながら娘の後をついてまわります。嫁の膝の上は完全なる安心をもたらす特殊構造になっているらしく、コロッケを乗せると一瞬で奴は心地良さそうな虚な目になり、しばらく乗ったままで動けなくなります。まさに嫁Yogibo状態。

オイラの場合はというと、コロッケをヨイショっと捕まえて、撫でながら膝の上に乗せてみても約2秒程度で身をよじって去っていきます。しかも太ももに爪を食い込ませるジャンプ移動で。痛ぇよ。

このパワーバランスからもわかるように、家族内で権力を行使される頻度が最も高いのがオイラということになります。猫のご機嫌を優先するあまり、長年に渡って苦汁をなめて続けてきたのです。

しかし、そのパワーバランスに最近変化がもたらされました。その原因が孤高の女王ブイヨン。コンブとくっつくことによって安心感を獲得していたブイヨンが、なぜかオイラにスキンシップを求めるようになってきたのです。あの人間との触れ合いに全く興味を持たなかったブイヨンが。

オイラがソファーに座っていると音もなく忍び寄ってきて、いつの間にか左腿の隣にスタンバイ。それに気づいたオイラが左手でブイヨンを抱き寄せると、抵抗するそぶりを見せずにあっけなく抱き寄せられてくれます。力を抜いてパタンと身体をあずけてくれる感じ。相思相愛の男女がコトに及ぶ時に軽く押し倒すあの感じとでも申しましょうか。なんかその“パタン”の瞬間だけ、いつもちょっとドキッとします。

コンブの代わりを求めるのなら、コロッケとスキンシップをしてもよさそうなのに、ここにきてなぜかオイラを求めるようになったブイヨン。渋いぜ。オジ専?でもありがとう、嬉しいよブイヨン。お腹撫でてあげる。

これで我が家の権力闘争にオイラ&ブイヨンという新しい側面が登場しました。オイラの手元にビールやらゲームのコントローラーやらが無条件に集まってくるのも時間の問題です。

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』(Netflix)、『HEART ATTACK』(FOD)、映画『宝島』(大友啓史監督)映画『ホウセンカ』(木下麦監督)など出演も多数。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/