トリップ
島旅のBGMに、何選ぶ?
島旅のしおり
2025年12月28日
もし島に行くなら、どんな音楽をお供させようか。3人のミュージシャンが選ぶ、旅気分に浸れるグッドミュージックを紹介中。
PLAYLIST「私の記憶の中にある『この島』の記憶」
Selected by 冥丁
島で生まれた翌年、1986年のアルバムから。13歳まで暮らしていた家で今再び暮らしている。庭の木々は40年間で3倍以上伸び、当時と比べると窓から見える海の景色も狭まった。それでも、島の“あの感じ”は変わらない。
島で生まれる前年、1984年のアルバムから。温暖化の影響で昔より陽炎が滲む島になった。目を閉じて心臓の鼓動を感じる。真夏の青空の下で辺りが真っ白に変わる。目を開くと世界は一変。蜃気楼が淡く続いている。
8歳の頃に発表されたアルバム。’90年代から島の活気は徐々に失われ始めた。賑わっていた島の海水浴場や道中にあった商店の数々は次第に静かに消えていった。島の記憶を覆い隠すようにその場所に植物が茂っている。
現在の島には移住者も多く住んでいる。かつて将来に夢を抱いた島民は島を離れた。故郷の島で音楽家として過ごす日々は、まるで島で一人で生きている感覚を与えてくれた。未だに島の記憶の中に僕はいる。
自身が27歳のときに島の海辺で録音した波音で作り、2018年にリリースした曲。京都に身を移していたあの頃、島は帰郷するたびに力をくれた。人生のどん底にいた僕を何も語らず見守る、まるで母のような存在だった。
瀬戸内海に浮かぶ小さな島で生まれ育ち、気づけばもう40年ほど。島には大正や昭和の名残が点々と残り、どこか懐かしい景色が広がっている。職業柄、国内外を転々とすることが多く、日々出会うのは島の外の人たち。僕の生活はずっと島の外にあった。町内の人たちとは日常的に顔を合わせるけれど、それ以外の島人とはほとんど交わることがない。そんな僕にとってこの島は、今ここに存在していながらも、どこか記憶の中の場所のようでもある。このねじれた時間感覚こそが、“冥丁”の独自性を生み出しているように思う。今回選んだ5曲は、記憶の中にある瀬戸内の生まれ育った島と呼応するような曲。1980〜’90年代の、今はもう失われてしまった島の活気。過去を知ることなく訪れた移住者たちがつくる新しい文化。プレイリストには、過去と未来の狭間にいる、自分の少し不思議な立ち位置を振り返るような意味を含ませた。
プロフィール
冥丁
めいてい|日本の幽微な印象を作曲する広島在住の音楽家。別府市制100周年記念事業の一環として温泉をテーマに制作した新作「泉涌」を8月8日に発表。記念イベントを8月13日代官山 蔦屋書店、8月14日京都・しばしにて開催。
PLAYLIST「奄美大島にまつわる音楽群」
Selected by 環ROY
龍郷町から奄美フォレストポリスへ向かう車中で聴いた曲。比較的直線が長い山道で、車はスピードに乗っていた。車窓には抜けるような青空が広がり、山の緑が輝いていた。そのときに感じた疾走感が、強く記憶に残っている。
観光名所、瀬戸内町のホノホシ海岸。その近くに廃墟化したクルマエビの養殖場がある。海に多数の電柱が突き刺さったまま放置された光景は、さながらSFの世界観。そこでこの音楽は、世界の終わりのように響くかもしれない。
cheapWordは奄美大島出身・在住のビートメイカーであり、大島紬の泥染め職人でもある。そのため、彼の音楽には自然と奄美大島のムードが滲んでいる。奄美に関心がある人には、現地の雰囲気を掴む手がかりになるはずだ。
福岡が拠点のレーベル「OILWORKS」主宰の彼は、奄美群島・徳之島の出身。離島から都市へと拠点を移した彼の音楽には、望郷や郷愁の気配がサンプル越しに滲み出ている。リスナーは無意識にそれを受け取ることになる。
リゾートで再生する定番のアルバムより。ランカウイ島、奄美大島、バリ島、オアフ島など、訪れた先々で聴いてきた。プリミティブな音の質感が、どんな土地にも自然と馴染む。都市で再生すればそこがリゾートに変わる。
2022年の春、奄美大島を初めて訪れた。きっかけは瀬戸内町・古仁屋青年団主催の音楽イベント『夕まずめ』への出演依頼だった。島に足を踏み入れてすぐ、その土地特有の空気感に魅了された。植生は勢いがあり、密度の高い空気がズズズと満ちている。南国らしい明るさとは違い、深く沈んだ静けさとどこかドープな空気が漂っていた。開発の手が入りきっていないことが、その印象に関係しているのかもしれない。帰宅後もその記憶が色あせず、家族と再訪を決めた。宿は古仁屋青年団の山倉くんに紹介された、笠利町の海沿いの小さな宿。客は1〜2組と限定され、目の前には静かなプライベートビーチが広がっている。東から日が昇り、西に沈んでいく様子が一望できた。宿の人たちは親戚のように温かく接してくれた。子供たちもよく遊んでもらい、その場所を気に入った僕たちはすでに3度訪れている。今後も通うことになると思う。
プロフィール
環ROY
たまき・ろい|ラッパー、ビートメイカー。これまでに6枚の音楽アルバムを発表、国内外の様々な音楽祭に出演。その他、パフォーミングアーツ、劇伴音楽、広告音楽、絵本などを制作。
PLAYLIST「Island Summer Guitar」
Selected by 曽我部恵一
ギタリストのヴィニ・ライリー率いるThe Durutti Column。その1stアルバムの冒頭を飾るトラック。じりじりと焼け付く暑さの夏ど真ん中。シンセサイザーが奏でる鳥のさえずりが聞こえてきたら島旅のスタートを切ろう。
パンクブームが去りし1980年代初頭に結成された、女性3人組によるミニマルポストパンクバンド、Marine Girls。ささやくような歌声と反復するリズムが、静かな反抗と青春の余韻を描く。さざ波の音とともに味わいたい。
アメリカン・ギター音楽のスター、 John Faheyによる名演。淡々としたつまびきとコード進行のなかにも、情緒的なストーリーがじわじわと立ち上がってくる。島の夕暮れ、日が傾きかけた頃にかければ空が一層色づく。
ギターの鳴りも語りの声も、どこか遠くて懐かしい。エレキのコードが響き出すのと同時に、抑えていた感情が溢れ出してくるよう。海を前にして過去の人や思い出がふと浮かぶような、そんな時間に流れていてほしい。
歌詞は恋人に新しい男ができたという内容だけれど、不思議と穏やかで、やさしく、安堵に満ちた空気に包まれている。再生するのは、日が暮れ島が静けさに満ちた頃がベストタイミング。
瀬戸内海に浮かぶ小豆島。香川出身の僕にとっては、幼稚園の遠足や家族旅行で訪れた思い出の場所であり、大人になってからも音楽フェス『shima fes SETOUCHI』(今年は直島開催)で訪れていた長年の幼馴染みみたいな島だ。まず島に向かうジャンボフェリーでうどんをすするのが恒例。窓の外を流れる島々を眺めていると、所々に感じ取れる人々の営みに心がすっと穏やかになる。島に着けば、海や空、太陽の光、そして島の人のあたたかさが、ずっと変わらない風景のなかで、自分をまるごと受け止めてくれる。そこに向き合う自分の気持ちもまた、昔とほとんど変わらないのが不思議でいる。白い砂浜が広がる夏の小豆島のビーチに合うのはバンドサウンドじゃなくて、体に染み込むようなギターサウンドじゃないかな。一日を通してこのプレイリストを聴けば、何もせずただ海辺でぼーっと過ごす時間が最高にエモくなるはずだ。
プロフィール
曽我部恵一
そかべ・けいいち|’90年代初頭からサニーデイ・サービス(Vo、G)として活動する他、ソロ活動やプロデュース、執筆、俳優業など、ジャンルレスに活動。最新ソロアルバム『パイナップル・ロック』が現在配信中。
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