カルチャー
しまおまほのセクよろ/season2
第1回:挟む。
2021年6月15日
text&illustration: Maho Shimao
2021年7月 891号初出
まったくもって、忘れられない。真実を知ったあの日のことを。
それまで、わたしは「挟む」のだと思っていた。何を? ナニを。どこに? 女の人の太ももの間に。それが、大人の男女がする秘事だと信じていた。太ももに挟めば、赤ちゃんができるのだ。小学校4年の頃のこと。
真実をわたしに告げたのは、父親であった。髭面で仮性包茎の(※髭と包茎に因果関係はありません)父親である。わたしがあまりにも「はさむ〜はさむ〜」とおちゃらけて言いまくっていたので、間違った知識が学校で流布するのを食い止めねばと思ったのかもしれない。いや、すでに知っている子たちから白い目で見られているのを不憫に思ったという線も考えられる。食卓で夕飯の際、「あのねえ、挟むんじゃないんだよ、本当はね……」と諭すように教えられた。わたしは驚いて「エッ? エッ?」と何度も聞き返した。「エッ? エッ?」を連発した。親にとっては地獄の時間だっただろう。イキって「挟む」を延々リピートしていた娘が本当のことを聞いてマジに驚き、動揺し、目が泳ぎ、ダサいリアクションを繰り返している。わたしが親だったら……我が子といえど直視できないだろう。
次の日、もちろんわたしはそのことで頭がいっぱいだった。このことを、誰かに伝えたい。いや、あんな悍ましいことを口になぞ出せない。男の人の……を、女の人の肛門に……だなんて。
……そう、父は一番大事な所をざっくりと「お尻にある穴」と伝えていたのだ。わたしはとにかくウンコはどうするの、と頭を抱えた。まったくもって答えが出せなかった。考えるだけで歩を進める足も自然と内股になる。ランドセルの背負い紐を握る手に自然と力が入っていた。
下校途中、隣にはシオノさんがいた。シオノさんはリレーの最中に自分を応援する「シオノー!」の掛け声に「なあに? 呼んだ?」とリレーをやめて観客席にトコトコ近づいてチームをビリに落とすような子で、一事が万事すっとぼけているのだが、勉強となるとズバ抜けて成績が良く、人に教えるのも上手い不思議な子だった。友だちをからかうようなことはしない、独特の感性と鈍さを持っているシオノさんならわたしのこの沸る気持ちを受け入れてくれるだろう……。
言いたい、言えない、言うべきか、言わざるべきか……。
結局、最後まで言えなかった。普通に、バイバイと曲がり角で別れた。
先日、シオノさんと十数年ぶりに会った。2人の姉弟を育てる親になっていた。シオノさんの顔を見て、当時の葛藤が蘇った。言おうか、言うまいか……。
「あのね、シオノさん。赤ちゃんて……女の人のお尻の穴に……」
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しまおまほ
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