TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#1】Future Days Shopと7インチの話
執筆:Tomo Katsurada
2025年7月12日
アムステルダムのヨルダン地区近く、Haarlemmerdijkというにぎやかな通りに『Future Days Shop』という小さなコンセプトショップをオープンしてから、1年が経ちました。お店は、1918年に東京駅のモデルとなったアムステルダム中央駅から徒歩10分の場所にあります。
photo: Rebeca Valls
2024年の夏、刺繍作家であるパートナーのEloïse Ptitoと一緒にこのお店を始めました。音楽、洋服、アート、クラフトなど、僕たちが「未来を担う」と信じるものを世界中から集め、紹介しています。店内には、レコード、服、希少なアートブック、おもちゃ、工芸品などが並び、DJブースやラジオ設備、奥にはエロイーズが講師を務める月例ワークショップを行うテキスタイルスタジオ「Inner World Studio」もあります。建物は1896年築、もともとは魚と果物のお店でした。アール・ヌーヴォー様式の美しいファサードに一目惚れして、この場所を選びました。
photo: Rebeca Valls
この店を始める以前、僕は「Kikagaku Moyo」というバンドで10年間、世界中をツアーしてきました。その旅の中でも、最も愛着を感じた街がヨーロッパの拠点にしていたアムステルダムでした。だからこそ、このまちでもっと地に足をつけた形でカルチャーに関わっていたいという思いが、この空間を作るきっかけになりました。
バンド時代、僕はアートディレクションも担っていた経験から、世界中のアーティストたちとコラボレーションしてきました。音楽とビジュアルカルチャーの可能性にずっと興味があったんです。エロイーズもモントリオールでアートディレクターとして活動していた経験があり、お互いの内面世界をかたちにするように、お店をつくり上げました。
10年間のツアー生活の中で、僕が学んだもっとも大きなことのひとつは、性別や年齢、国籍に関係なく、人が音楽やアート、ものづくりを通して自然につながる場所を持つことの大切さです。人と人、人と社会、人と国とのあいだには、さまざまな“壁”が存在します。でも、音楽やアートは、その壁に内側から扉を開いてくれる——そんな力があると信じるようになりました。
世界中で数えきれないほどの刺激的なお店やカルチャー空間に出会ってきましたが、同時にどこへ行っても似たような雰囲気の店が増えていることにも気づきました。だからこそ、僕たちは「流行に流されない、自分たちなりのOne of a Kindな場所」をつくろうと決めました。オンラインショップはあえて設けず、SNSにも頼りすぎない。そしてインターネットよりも豊かな体験を提供できるよう、五感で楽しめる“リアル”な店づくりを目指すこととなりました。
photo: Rebeca Valls
この4回連載のコラムでは、そんな店の日常のことと、僕が旅をしながら集めてきた7インチレコードの話を交えて綴っていきます。第1回では、なぜ7インチを集めはじめたのか、そのきっかけについて書いてみたいと思います。
集め始めた動機のひとつは、音楽と脳の関係に対する興味でした。パートナーの父親が脳科学者で、僕はモントリオールのマギル大学にある「音と脳」の研究所を訪れる機会があったんです。そこで議論した「なぜ人はある音に本能的に反応するのか?」という問いが、僕の中に強くの残りました。それ以降、それに関する書籍で学ぶことで、より深い好奇心を抱くことになりました。
ジャンルや年代に縛られず、自分の脳が素直に反応する音を一曲ずつ集めていこう。そう思って手にしたのが、7インチレコード。アルバム単位では見逃してしまうような曲の個性や手触りが、シングルというフォーマットでははっきりと浮かび上がってくる。僕にとって、7インチは“嗜好の純度”が一番表れるフォーマットです。
なかには自主制作のものや、アルバム未収録の裏面曲、突発的に録られたような実験的なトラックも多くて、どこかむき出しで、恥ずかしくもありながら正直なコレクションになっています。
今回紹介したいのは、C.C BANDによる1978年に7インチでリリースされた「CRAZY DANCE」という1枚。
サイケデリックで遊び心が全開のディスコトラック!まるで70年代のパリのアンダーグラウンド・ディスコクラブで、はしゃぎながらも、ふっとコズミックな空間へみんなで昇天していくような—そんなイメージを想像させながら、気がつくと思わず笑いながら踊り出してしまう1曲です。
僕が大好きなフランスのレーベル「Disques Vogue」からのリリースで、このレーベルを設立したのは、伝説的な画家ソニア&ロベール・ドローネー夫妻の息子で、戦後のジャズシーンを牽引したプロモーター、シャルル・ドローネー。1970年代初頭、母であるソニアがレコード盤の形をモチーフにした新しいロゴをデザインしたことでも知られています。
このロゴが入ったレコードは、僕の耳が高確率で反応する“サイン”みたいな存在です。見かけたらとりあえず針を落としてみる—そんな習慣が身についています。
7インチを集めるようになって、もうすぐ10年。音を探すというより、“音に出会う”感覚を楽しんでいます。
次回は、“Future Days Shopの日常”に続き、更なる7インチレコードの魅力(カバー曲編)と、それにまつわる思い出について色々書いてみたいと思います。次回もお楽しみに:)
プロフィール
Tomo Katsurada
とも・かつらだ|サイケデリックバンド Kikagaku Moyo の創設者であり、ギター・リードボーカルとして世界的に活動。バンドの無期限活動休止後は、オランダ・アムステルダムを拠点にソロアーティストとしてのキャリアをスタート。2025年には、デビューソロアルバム『Dream of the Egg』を携え、初のヨーロッパ・ソロツアーを成功させる。
自己探究の延長として始めた7インチレコードの収集をきっかけにDJ活動も展開し、J-WAVEやWorldwide FMにてラジオ番組を担当。テキスタイルアーティストであるパートナーの Eloïse Ptito とともに、2024年6月にアート・音楽・衣服を融合させたコンセプトストア『FUTURE DAYS SHOP』をアムステルダムにオープン。
Instagram
https://www.instagram.com/bootlegbunny/
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