TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】ハビングファン!

執筆:阿久津賢二(『Small Drug Store』店主)

2025年7月3日

95年の夏休み、塾の長期合宿から帰ってきて、ヘロヘロになってる僕に姉が「クラブ行く?」と言ってきた。迷うことなく「行く!」と答え、精一杯のおしゃれを考えながら出発までドキドキしていた。そして姉の友達の車に乗せてもらい、夜の渋谷に向かった。連れて行ってもらったのはインクスティック、入るときにエントランスで止められないか不安だった。はじめての夜のクラブは、緊張してたからか、あまり覚えていない。会話がすべて頭上で行われているみたいで、フワフワしていた。ただ車中で聞いたRHYMESTERのEGOTOPIAの衝撃は半端じゃなかった。自分が聞きたい音楽がそこにあったのだ。

寝室の壁におじいちゃんの「書」が飾ってあった。ベッドに寝っ転がると見える位置にあり、そこには「よく学びよくあそべ」と書いてあった。子供のころ、布団に入ってそれをボヤーンと見ながら「遊んでいいんだぁ」と思っていた。「勉強しなさい」とは言われても、「遊びなさい」とはなかなか言われないので、いつも不思議な言葉だなと感じていた。そして優しく背中を押してくれる言葉でもあった。

ラップをはじめてからは夜遊びばかりしていて、ファミリー、ベッド、エイジア、ブエノス、スターパインズカフェ等々、いろんな街で遊んだ。そんな中でも三宿Webには思い出がたくさんある。きっかけはEiji (a.k.a. DJ KIRIN)さんが主催していた「two three breaks!」というイベントにレギュラーで誘われたからだ。しかもそこにレギュラーDJでRHYMESTERの(マミー)Dさんもいた。そこで僕は未知でグッドな音楽をたくさん聞いたし、いろんな人達と出会った。前職の仲間GaimGraphicsともWebで知り合った。

長い時間を過ごした中で特に好きだったのが、店内にある階段に座って高い位置から見るバーカウンターあたりの風景だ。ガラガラな日もあれば、パンパンな日もあって、ヒマそうにしてる人や、上半身裸でウェーイってしてる兄弟もいる。同じメンツが集まっても一度として同じ夜は無い。平日の夜に集まるいい大人たちが、いい遊び方を教えてくれたのだ。そんな夜遊びは本当に楽しい。きっと今日も世界中のクラブでいろんな物語が生まれているはずだ。

とまあ、よく遊んだ結果僕も大人になり、今お店に立っている。来てくれる人たちがそれぞれの物語を運んでくれる。ストリートに留まることで見えてくる景色をこれからも眺めていたい。何が起きるかわからないけど、日々を楽しく、健康で。

プロフィール

阿久津賢二 a.k.a. smallest

あくつ・けんじ|ラッパー / DJ / 登録販売者。1980年東京生まれ。「あくつ薬局」3代目。HIP HOPグループ「トリカブト」で2001年デビュー。トリカブト活動休止後「Dig Dynamics Hip Hop doo-dah Band」を結成。それと並行して チップチューンバンド「SUPERSTARS」を結成。2012年『サイタマノラッパー3 ロードサイドの逃亡者』にNO SIGHT役で出演。俳句集団「傍点」同人。 2025年3月、学芸大学駅前に薬とカルチャーの店『Small Drug Store』を開店。落語好き。

Instagram
https://www.instagram.com/small_drugstore
https://www.instagram.com/smallest7575

X
https://x.com/smalldrugstore

YouTube
https://www.youtube.com/@smalldrugstore