TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】季節は巡る

執筆:川内倫子

2025年7月4日

 以前、田舎に住んでいたら仕事する気が起きないんじゃないの? と何人かの知り合いに言われたことがあるが、むしろ逆で、仕事場にしている2階の階段を登っていると自然に仕事モードに切り替わり、集中して作業することができる。時々窓の外の緑を眺めながら一息つく癖ができたので、引っ越すまえよりも視力がよくなったという嬉しい効果もある。

 自宅兼仕事場は出張帰りの自分を立て直して調整できる場所であり、自分をメンテナンスするための基地のようなところだ。積年の疲労と更年期の不調のすべてを取り去ることはできないが、少しでも整えて備えることはできる。

 ここ数年いろいろな欲が薄れてきてしまった。洋服も知り合いのブランドの展示会で時々数枚買うだけになったし、食も細くなり、大好きなお酒も以前のようには飲めなくなった。それは欲深い自分にとっては、執着が少なくなって生きやすくなった反面、楽しみも減ったような気がして寂しい気持ちもあったが、旬の食材に対する欲だけは薄れるどころか深まってきている。

 旬のものが身に沁みるようになったのは、歳を重ねたことで環境とのリズムを身体が欲しているからだろう。若いときには多少の無理ができても、それができなくなってきたということもある。

 季節が巡っていくことを身体の内側に取り入れ、自分がこのサイクルの一部だと実感することで風が通っていく感覚が心地よいのだ。以前はそういったことにフォーカスせずともほかの欲を満たすことで前に進んできたのだが。

 きょうもまた仕事の合間に窓辺の景色に目をやり、晩御飯の献立を思案する。

プロフィール

川内倫子

かわうち・りんこ|1972年、滋賀県生まれ。写真家。2002年に『うたたね』『花火』で第27回木村伊兵衛写真賞受賞。2023年にソニーワールドフォトグラフィーアワードのOutstanding Contribution to Photography(特別功労賞)を受賞するなど、国際的にも高い評価を受け、国内外で数多くの展覧会を行う。主な著作に『Illuminance』(2011年)、『あめつち』(2013年)、『Halo』(2017年)など。2022〜2023年に東京オペラシティ アートギャラリーでと滋賀県立美術館で大規模個展「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」を開催。現在、個展「a faraway shining star, twinkling in hand」が世界各国のFotografiskaで巡回中。2025年に写真集『M/E』、篠原雅武との共著『光に住み着く Inhabiting Light』を刊行。