ライフスタイル
ものづくりの精神息づく益子で見つけた“秘境”。 ゼロから住まいを開拓した、山裾の師匠を訪ねる。
ヤマスソクラシウラヤマシ Vol.4 /高山英樹
photo: Koh Akazawa
lettering: Daijiro Ohara
text: Fuya Uto
2025年5月20日

妻の純子さん、息子の源樹さんと家族3人で暮らすのは、5間×5間のプレハブ建築2階建て。農業で使われる鉄骨ビニールハウスが快適なことを体験し、ならば自分の家も……と自ら図面を描いて業者に組んでもらった。手前は源樹さんがひとりで過ごすとき用の小屋。
山で暮らしてみたい。朝はむせるくらい思いっきり綺麗な空気を吸いたいし、焚き火を眺める夜を過ごしてみたい。でも、カフェでお茶するのも、古着屋やインテリアショップで買い物するのも同じくらい好きだから、街でも遊びたい。というわけで、そんな都市と自然の両方をバランスよく楽しむ暮らしを“ヤマスソクラシ”と定義して、全国津々浦々のお家を訪ねてみた。モダンな感覚を持ちながら、街へのアクセスが比較的よい場所で自然とともに暮らす、そんな人々。自分なりの工夫で住まいをつくることは、誰にでもできる人生最大の表現。そんな暮らしに憧れる。
関東平野の端っこであり、栃木と福島と茨城にまたがるように聳える八溝山のはじまりの地。遠くには日光連山の名峰・男体山が霞む。まさしく「山裾」と呼べる益子町で、木工作家の高山英樹さんが暮らし始めたのは2002年のことだ。

玄関のそばのリラックススペース。3人で寝られるほどデカいハンモックが掛けられるのはトラス構造の梁ゆえ。壁面に飾られたバードハウスは「作ったはいいけど、外に本物の巣穴ができた」とのことで、部屋のインテリアに。
妻の純子さんと約2年をかけて暇をみては道なき道までひたすら車で回るなか、山を背に三方が田んぼで囲まれたこの“秘境”を探し当て、奇跡的にその日その場で持ち主を知るお爺さんと出会ったことから物語は始まる。聞けば、なんとプレハブの骨組み以外はセルフビルド。しかも敷地内の樹木、草、竹を自力で伐採し、整地し、基礎打ちまでしたというのだから驚くしかない……。僕らにとってのヤマスソクラシの師匠とも言うべき高山さんは、一体どうして益子でそんな暮らしをしているのだろう?

自然光で満ちるリビングの壁面には、自作の絵と、シュロと杉の葉を生けた花びんを。相性抜群。

1階ダイニングも景観をよくするために構造上可能な限り窓に。「なんでも形を生み出そうとするときって手の感覚が大事で、それを養うためにはランドスケープが大切。見えている範囲をどこまで自分として拡張できるかだと思うんですよね」と源樹さん。
「20代前半の頃に旅したニューヨークとグアテマラで見た光景が忘れられなくて。クラブで爆音が流れる前者と、薪を背負った人が道で昼寝をしていた後者。どちらも格好よかったから、両方を味わおうと思って。東京からも近くて、美しい自然がある益子を選びました。窓や庭から見える景色を含めて“住まい”だと思っている自分にとっては、ロケーションが何より大事だったんです。住んでみてわかったのですが、川崎出身の陶芸家の濱田庄司がこの地に定住していたのもそれが理由。昔から文明と自然とのバランスが取れた生活を志す人たちが移り住み、それを受け入れてきた町なんですよ」

2階の床には大きな穴が開き、そこから1階に階段が通じている。プレハブとはいえ、骨組みも梁もガッチリと鉄骨で組まれ、実はとても頑丈。3.11の際も被害はなく、避難所代わりにもなった。

2階からは田園風景を目いっぱい楽しめる。壁際にある椅子やオブジェは高山さんの初期の作品。
そんな益子の豊かな自然の中で過ごすうち、高山さんは現代の情報社会と向き合う“コツ”を発見したという。息子の源樹さんを田舎で育てるに至った理由もそこにある。
「例えばスーパーマーケット経由ではなく、生産者から直に届く食材を取り入れたりと、リアルな物質や自然を体で感じる生活をしていると、同じ情報に接しても、得られるものの質が明らかにいいことがわかって。見ている情報は一緒でも、受け取る側の身体感覚が違うからね。ネットの情報からも、よりリアルな実感を得られるというか。そのバランスを保つには、都心からある程度離れたり、広い空間にいることが必要だと思っています。でないと発想がバーチャル的になってしまう。それを実践し、そんな環境で子育てするのが自分の理想だったんです」
なるほど、数多ある情報をジャッジするためには、生活に自然を取り入れて身体感覚を整える必要があるってことなのか。この高山さんの言葉にこそ、ヤマスソクラシの神髄が集約されているのかもしれない。そんな感慨をよそに、本人は「家族には、そんな真面目じゃないでしょってツッコまれるんです(笑)。僕はただ、自分が楽しく暮らすための “作戦” がたくさんあるだけです」とカラリと笑うのだった。



薪割りは源樹さんのライフワーク。小学2年生から継続しているから、呼吸してるように割っていた。スウェーデン発の〈GRANSFORS BRUK〉が相棒の斧。

畦道を正面に佇む平屋は前の持ち主の小屋。工房として使っている。

木工工房の一角には、古材や廃材を組み合わせて作られる直線的な家具をはじめ、ニョロッと官能的なオブジェやブックエンドがセンスよく飾られる。

さらに、最近ゲットした少し離れた土地にはぶどうが数百本ほど植えられている。源樹さんのワイン造りがこれからはじまるのだ。これらすべて合わせると約5000坪という広大な敷地は、家族3人で野山を20年以上の月日をかけて一歩一歩切り開き、作り上げた。千里の道も一歩から!

お邪魔しました。また遊びに行かせてください〜!
プロフィール
高山英樹
たかやま・ひでき|1964年、石川県生まれ。文化服装学院卒業。都内で主に舞台衣装を制作したのち、内装業を手掛けるように。現在は古材を用いた家具やオブジェを制作する。
家のこと
Area
都心から車で2時間ほど。関東平野の裾であり、「陶芸のまち」と呼ばれるほど多くの窯元が点在する。
Space
各階の面積は約83㎡の2階建て。
Money
土地と建物で約250万円からスタート。
How to live
理想の土地を約2年かけて車で巡って探し当て、2000年に購入。妻の純子さんと2人で荒れ地を超地道に開墾した。プレハブ建築の家は、ベース以外はDIY。現在も周辺の土地を開拓する日々を送っている。
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