ライフスタイル
「芸術の町」と呼ばれる地で、近所の人の知恵を借りて古い民家をDIY。自ら手を動かして作る家って夢がある。
ヤマスソクラシウラヤマシ Vol.3 /村上諒平
photo: Koh Akazawa
lettering: Daijiro Ohara
text: Fuya Uto
2025年4月20日

山で暮らしてみたい。朝はむせるくらい思いっきり綺麗な空気を吸いたいし、焚き火を眺める夜を過ごしてみたい。でも、カフェでお茶するのも、古着屋やインテリアショップで買い物するのも同じくらい好きだから、街でも遊びたい。というわけで、そんな都市と自然の両方をバランスよく楽しむ暮らしを“ヤマスソクラシ”と定義して、全国津々浦々のお家を訪ねてみた。モダンな感覚を持ちながら、街へのアクセスが比較的よい場所で自然とともに暮らす、そんな人々。自分なりの工夫で住まいをつくることは、誰にでもできる人生最大の表現。そんな暮らしに憧れる。
新宿駅から1時間ほど中央線に揺られれば、先ほどまでのビル群とはうって変わって緑が広がり、相模湖を望む旧・藤野町に着く。この地は「よろづ屋」と名付けられた独自の地域紙幣が機能していたり、市民が自力で電力を賄う活動をしていたりと、とにかくDIY精神が息づき、陶芸家や木工作家などものづくりを生業とする人々も多く定住している里山だ。それらに惹かれた移住者も後を絶たないと聞く。
代官山の古物店『SUPER PERSONAL SHOWCASE』の店主であり、内装デザイナーの村上諒平さんがこの地で暮らしはじめたのは約4年前のこと。
「『アットホーム』で偶然見つけたんです(笑)。憧れの土地というよりは、家と工房の家賃を抑えられる移住先を探していて“流れ着いた”感じです」
てっきり、その類いだと睨んでいた浅い予想と裏腹に、村上さんはそう微笑む。なんでも内見から2日で決めなければ購入できないかつ、手直し必須の状態だったそうだが、横浜市鶴見から引っ越しを決意。二重窓の設置のみ業者に依頼し、他すべてを家族5人で暮らしながらセルフリノベーションしたそうだ。
「この壁をぶっ壊してみたらどうなるかな? と実験しながら進めていきました。もともと絵画をやっていた影響で、3Dの内装も平面の連続と考えているんです。なので寸法は二の次で、目が楽しいのが優先。どういう順番で視界に入ってきたら気持ちがいいか、で組み立てていく感じですね」
1階の廊下の壁は、古今東西のフォークアートや縁起物を壁面にリズムよく配置。色味は南米をイメージしてオリジナルで配合。内装仕事は垂直・水平が基本だからこそ、“手垢”が残っているものを集めてしまうんだとか。物の配置に関しても「子供がいるとアンパンマンやトーマスが自然と組み込まれるのですが、受け入れたほうが心地がいいんですよね」

リビングにのびのびとぶら下がっていた、水草で編まれたメキシコのすだれ。こちらを取り扱っていた大阪の『トンボラ』は、向こうに行ったら必ず立ち寄るお気に入りのお店。

民芸品を中心にさまざまな食器が重ねられている。「とにかく買い物が好きですし、あんまり捨てないからスゴい量になっちゃって。整理したいですけど、場所があれば捨てる必要ないなって」
たしかに、扉がアーチ型になっていたり、洗面所に「BATHROOM」とサインが描かれていたりと楽しげな設計だ。キッチンや廊下には玩具箱をひっくり返したようにポップな古今東西の雑貨がランダムにひしめいているが、グリーンに統一された壁面が(ついでに洋服もね)不思議と喧嘩せず空間をまとめている。と、ここまでは東京でもできなくはない話。でも、そんな家が今の形になったのは、近所に住む、藤野の人たちのおかげだという。

庭に建てられた工房は約2年前にセルフビルド。村上さんが図面を起こし、仲良しのご近所さんに力を借りながら、庭木の伐採から行った。手前のアカシアの木は村上家のシンボルツリー。

柔らかな自然光がまわる工房では、同じ武蔵野美術大学出身の仲間たちと一緒に日々制作を行っている。村上さんはデザインまわりを担当。

工房の裏手にある家庭菜園は、ハーブ類、長ねぎ、玉ねぎなどが植えられている。「料理が好きなこともあって助かっていますね。嫁さんが、うちの家族は家族というよりはチームだねって言ってたんですけど、しっくりきています。それぞれが料理も家事もする。でも実は、この家庭菜園だけは、僕はノータッチなんですけどね(笑)」
「庭に工房を建てるとき、庭一面に植えられていた木を近所のおじいちゃんがユンボで掘ってくれたんです。片付ける段取りも別の方が教えてくれたし、建材もそのコミュニティの材木屋さんから破格で譲ってもらえて。都市だと隣の人が誰かわかりにくいけれど、顔が見えるからお互いに助け合えるんです。家族の枠が広がった感じで、よく一緒にお酒も飲んでいますよ」
里山に身を置く生活は、地元の人との付き合いがダイレクトに住み心地へと繋がっていく。となると、アレコレ考えるのではなく一度その地に飛び込み、自分の肌に合うか判断するしかないってことだ。当たり前のことだけど、「大胆さ」をもってして新たな出会いがもたらされることは確か。いつの間にか人が集まり、語らう庭先はそれを証明しているかのようだ。

内装の什器やディスプレーなど大きな制作物は庭で作業することも多く、ここから東京や地方に出荷する。休日は東京の友人や近所の子供とBBQをしたり、夏になると裏山の竹を切って流しそうめんをするのが定番。広いスペースがあるだけでも羨ましい。

2階のベランダからは、「芸術の町」とも呼ばれている人口1万人弱の集落をぐるりと囲む山々の尾根が広がる。見晴らし抜群!
プロフィール
村上諒平
むらかみ・りょうへい|1989年、神奈川県生まれ。武蔵野美術大学油絵学科卒業。〈studioBOWL〉名義で内装デザイナーとして活動する傍ら、2022年に雑貨屋『SPS』をオープン。
Official Website
https://www.studiobowl.com/
Instagram
https://www.instagram.com/ryoheymurakami_studiobowl/?hl=ja
家のこと
Area
車でも新宿まで約1時間と都心に出やすい一方、相模湖を中心に緑豊かな山間の風景が広がるバランスの良さが魅力。
Space
3LDK、2階建て
Money
土地と建物でざっくり800万円くらい。
How to live
物件サイトのアットホームで偶然発見。知り合いがこのエリアに住んでいることもあって土地の魅力は知っていたため、内見2日で購入。踏み切った決め手は静かな環境と、家賃の呪縛から逃れられること。
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