TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】ルアンパバーンのお土産は。

執筆:入山杏奈

2025年4月15日

ラオス・ルアンパバーン。

到着した瞬間、まず驚いたのは空港のロケーションだった。機内の窓から見えるのは、赤茶色の屋根と緑の木々と、穏やかな暮らしがにじみ出る民家の風景。そこに、飛行機がぐいっと入り込んでいく。まるで、民家の庭に着陸するんじゃないかってくらい市内ど真ん中。こんなに“生活の中に空港がある”街、初めてだった。

そのまま散策した市内は、グッと私たちの心を掴んできた。のどかな雰囲気で治安がよく、バイクの音すら優しく聞こえる。観光地なのに妙に落ち着くのは、川と山に囲まれた自然のせいか、それとも仏教の空気のおかげか。

夕方には川沿いの高台から夕陽を見た。赤とオレンジがゆっくり沈んでいく空に、何度「すごい」を言ったかわからない。夜ご飯には名物のカオソーイを食べ、地元のビールで乾杯。なんでもない一日なのに、一瞬たりとも忘れたくないと思わせてくれた。

そして翌朝。朝5時に起きて、いよいよ“托鉢”を見に行った。

托鉢は、僧侶たちが静かに列をつくりながら町を歩き、地元の人からお供え物として炊いたもち米や食料を受け取るという神聖な儀式だ。まだ仄暗い空の下、オレンジの袈裟をまとった人々がすっと通り過ぎる姿は、まるで時間が止まったようだった。地元の人や参加を希望した観光客が、丁寧にお供え物を手渡していく。その一つひとつが“敬う”という行為でできていて、そこには言葉がいらない美しさがあった。

…のだけど。

そんな神聖な空気の中、私はとある“見逃せないシーン”に出会ってしまった。

僧侶たちは受け取ったお供え物の一部を、恵まれない人たちに分け与える。文化としても精神としても素晴らしい行為だ。が、気になったのはその“渡し方”。

子供の掲げたカゴめがけて、僧侶がポーンとお団子を放る。お供え物を分け与える、という分には相違ないのだが、完全に“投げてる”。まるで脱いだ靴下を洗濯カゴに放るみたいに。時折的を外すが、それも気にせず。

「ここだけ厳かのかけらもなくない?」
白く明るく染まっていく街の中、少しのもやもやが宙に浮いて消えていった。

思いやりに包まれた時間の中に、ちょっとした豪快さが混じっている。そのバランスがなんだかルアンパバーンらしい気がして、私は少し笑ってしまった。

結局、旅ってこういう瞬間がいちばん記憶に残る。絶景でもグルメでもなく、「それでさ、お供え物投げてたんだよ」って人に話したくなるあの5秒の光景。思い出もおみやげも、この中に詰まってる。

「ラオス土産は?」と聞かれたら、私は胸を張って言いたい。「僧侶のもち米の投げ方です」と。

プロフィール

入山杏奈

いりやま・あんな|1995年、千葉県生まれ。愛称はあんにん。2018年からメキシコで放映されたテレビドラマ「L.I.K.E」の出演のためメキシコに移住し、以来スペイン語が特技に。日本とメキシコを行き来しながら活動を続け、現在は日本に一時帰国中。昨年10月には日本テレビ系「潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官」でAKB48卒業後初のテレビドラマ出演を果たした。

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