TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】移り変わる窓の灯りを探して
執筆:畳野彩加
2025年4月5日
上京して最初に住んだのは椎名町という池袋からすぐ近くのところで、老舗の蕎麦屋や古い焼き鳥屋、青果店などがある小さな商店街があった。家の近所には銭湯が2つあって、下町っぽい雰囲気がある街だった。特別な理由があって上京した訳ではなかったので、なんとなくだけど毎日帰ってくる駅の景色は空が開けているところがいいなと思っていたのと、渋谷や新宿からもそんなに遠くはなかったので椎名町に住むことにした。
京都に住んでいた時はどこに行くにしても移動は自転車が多かった。買い物やアルバイトに行く時、ライブを見に行く時も自転車だった。どれだけ疲れていても自転車を漕げば少し元気になるような気がしていて好きだった。夜、映画を見終わった後、その余韻のまま自転車を漕いで考え事をしたりして、頭の中を整理するのにもちょうどよかった。
上京してから移動は全部電車になって、満員電車も京都ではあまりなかったので慣れるまで結構辛い毎日だった。映画館に行った時は賑やかな街を経由して帰るのが慣れなくて、いつものあの帰り道のことを思い出して少し切なくなりながら電車に乗った。都会に慣れることに必死になりながら日々過ごしていた。
どうしようもなく疲れて帰ってきた時、駅前にある『南天』という肉そば・肉うどんが食べられる立ち食いそば屋によく行っていた。店前のテーブルや駅側のベンチや腰掛けに座って食ベたりできる、ちょっと変わったお店だった。当時はそこで1人で食べる勇気がなかったので、テイクアウトをすることが多かった。日々の慣れない暮らしに疲れてしまって、急にポツンと1人ぼっちを感じるような日がよくあったけど、『南天』のそばを買って帰る日は少しだけ寂しくなく思えた。 それから、『北の誉』という大衆居酒屋にもよく通っていた。店内は常に賑わっていて、いつでも明るく優しい店員さんたちが迎えてくれる。料理はどれを頼んでも美味しくて、特にもつ煮込みは必ず頼むくらい絶品だった。〆には片手じゃ収まらないくらい大きなおにぎりをよく頼んだ。その場で握ってくれるので、お店の温かみを感じられて何とも言えないくらい幸せな気持ちになれるおにぎりだった。『北の誉』でのいくつかの記憶は、料理の味と共に今でも鮮明に思い出す。
東京に住み始めて8年くらいが経った。今は椎名町を離れて、緑の多い郊外の町に住んでいる。石川とも京都とも、そして東京でありながら東京ともちょっと違うようなこの町は今のわたしにとって居心地がいい。
わたしの暮らしや温度感も移り変わっていく。それと一緒に、部屋から見える街の景色はこれからも移り変わっていくのだろうと思う。それぞれの暮らしの中で私はきっと大丈夫と思える出会いを求めて。
プロフィール
畳野彩加
たたみの・あやか|Homecomingsのボーカル・ギターを担当。また、弾き語りでのソロライブや、様々なアーティストの楽曲にゲストボーカルとして参加するなど活動の幅を広げている。
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