TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】あの街の帰り道に憧れて
執筆:畳野彩加
2025年3月22日
私が生まれ育った石川の街は曇りが多くて田んぼや山に囲まれた、古くからある温泉街で、近所にはレンタルショップ、駄菓子屋、個人経営のスーパー、パン屋などがあった。大きなお店ではないけど、新しいシャーペンを買ったり、友達とシール交換をするためのぷくぷくシールやブロックシールを買うのにちょうどいい本屋もあった。週末にはお母さんと『KC』(住んでいた地域にしかないレンタルショップ)に行って見たい映画やアニメのビデオを借りたり、当時好きだったアイドルのCDを借りてきて、カセットテープやMDにダビングして曲名を手書きで書く作業が好きだった。家から5分くらい歩くと古い温泉旅館が並ぶ通りがあって、小さな頃から総湯 (銭湯の温泉バージョンみたいな)にほぼ毎日通っていた。あの頃は当たり前のことだと思っていたけれど、今振り返るとあれって特別すぎる日常だったんだな、と思う。
そんな街を行ったり来たりして私は大きくなっていった。
小学生の頃、学校と家がすごく近かったので朝も特別早起きする必要はないし、忘れ物をしてもすぐ取りに行けるのですごく便利だった。特に困ることはなかったけど、ひとつだけ子供ながらにさみしいことがあって、あまりにも学校と家が近すぎて、友達との帰り道が歩道橋を渡り終わるまでのすごく短い時間しかなかったことだ。毎日毎日、友達との話の途中で家に着いてしまうので、あの頃の私にとって帰り道というものは憧れのものだった。今でも帰り道が何となく好きなのはそのせいかもしれない。帰り道に一人で聴く音楽も、友達との会話も愛おしくて仕方がない。こんなふうにあの頃の私にも帰り道というものがあればなぁ、と思う。あの街を友達と帰れたら、どんなに楽しいことだろう。あの頃私は誰よりも早く家に着いて、この後繰り広げられる会話の続きを想像してはさみしくなっていた。
温泉街という場所柄、時代の変化の影響をもろに写してしまうから、今はもうなくなってしまったお店も多く、街並みもあの頃とは変わってしまったけど、少し寂れた街の匂いやグレーがかった空の色はさみしさと一緒にいつまでも心に残ったままだ。
プロフィール
畳野彩加
たたみの・あやか|Homecomingsのボーカル・ギターを担当。また、弾き語りでのソロライブや、様々なアーティストの楽曲にゲストボーカルとして参加するなど活動の幅を広げている。
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