ライフスタイル

【#2】ビジネスホテルの鏡。

2021年6月17日

ビジネスホテルで仕事をしようとした時の最も大きな障害は机の前の大きな鏡である。目の前に鏡があると何かにつけて自分を見ることになる。自分が思っているよりも老けていたり、疲れていたり、汚かったりしてまったく集中できない。わりとこれは「ビジネスホテルでの仕事あるある」らしく、知り合いは紙を貼って鏡を隠してしまうと言っていた。

なるほどと思いながらも、鏡に紙が貼られた光景を想像したらなんだか異様な感じがしてきて、何かを封印しているようにも思え、そこから悪い想像をしまくってしまい、子どもの頃からオカルトの類が怖くて仕方ない私には真似できそうになかった。

それならば鏡に映る自分に打ち勝てば良いわけで、それは自分との戦いであり、「自分の敵は自分」という言葉を初めて実感し、かつ実行してみる時でもあるのだが、鏡を見ると自分では似合っていると思って服がそうでもないことに気づき、道中ずっとこの格好で歩いていたのかと考えると愕然として、自分との勝負にあっさりと負けるのである。

プロフィール

せきしろ

文筆家。1970年、北海道生まれ。4月にエッセイ集『その落し物は誰かの形見かもしれない』を発売。著書に又吉直樹と共著の自由律俳句とコラム集シリーズの第3弾『蕎麦湯が来ない』や『去年ルノアールで』などがある。

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