TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

履く人のパーソナリティを引き出せる靴。

執筆:平沢幹太

2025年2月10日

サッカー少年だった自分がエア ジョーダン 1に初めて出会ったのは中学1年生の頃だった。当時クラブチームに所属していて学校では帰宅部だったこともあって、やんちゃな連中とつるんで練習がない日の放課後はよく遊んでいた。その中でも一番やんちゃな子が年の離れたお兄ちゃんの〈ナイキ〉のシューズを履いてきた日があって、それがシカゴカラーのエア ジョーダン 1だった。彼が当時ジョーダンを認識していたのかは分からないけど、シャツ出し、腰パンの制服に合わせたぶかぶかのそれは最高にかっこよかった。その日の夜に母のパソコンで調べて、それは〈ナイキ〉がマイケル・ジョーダンというバスケットボール選手のモデルとして作った靴ということを知った。

時は経って、高校生で地元に唯一あった古着屋でエア ジョーダン 1に再会した。それが今もたまに履いている、ホワイトブラック。当時からシンプルな色が好きで、お年玉をもらった後だったこともあって即決したのを覚えている。今思うと人生で初めて買ったハイカットの靴だった。買った当時は太いシルバータブやグレーのスウェット上下に合わせていた。それまではお洒落になって女の子にモテたいと考えていたけど、周りの大人に良いねとか渋いね、と言ってもらえるのが嬉しくて、自分もかっこいい人になりたいと思うようになった。大袈裟かもしれないけど、価値観が変わったきっかけの1足とも言える。

初めて銀座のドーバーに行ったときにネイビースーツにエア ジョーダン 1を履いている店員さんを見て、スラックスに合わせて履くことを覚えてからは、履き方の幅も広がっていった気がする。他の色も欲しかったけど、当時はスニーカーブーム。自分には靴だけがひとり歩きしているように感じて苦手だったけど、それでも本当に欲しい色が出るときは何度か原宿に並んでみたりした。1度も買えなかったけど、並んだあとは決まって『しずる』で牛ハラミ定食を食べていたのは良い思い出。今でもたまに無性に食べたくなる。

先日実家に帰った時に、母が昨年発売されたフルスウェードのエア ジョーダン 1を、自分が作っている〈FOLL〉のニットパンツに合わせて履いていた。母は「アクティブだけど履き心地良くて。良い色と素材だよね」と言う。その足元を彩るエア ジョーダン 1は、ひょうきんな性格の一方で丁寧で繊細な感性を持っている母の人柄がよく出ているように感じた。そもそも親子で同じモデルを履いて、それぞれに馴染むスニーカーって多くない。履く人を選ばない靴はあるけど、履く人のパーソナリティを引き出せる靴は本当に少ない。そういう意味でエア ジョーダン 1は本当に器の大きい靴だと思う。

あの日、40年愛されるその理由を改めて知った気がした。

高校生のときに地元の古着屋で購入して、今も手元にある白×黒のエア ジョーダン 1。

母親はフルスエウェードのエア ジョーダン 1を、〈FOLL〉のニットパンツに合わせて履きこなす。

母に自分のオフィスの側に来てもらい、コーディネートを揃えた“エア ジョーダン 1スタイル”で撮影。

プロフィール

履く人のパーソナリティを引き出せる靴。

平沢幹太

ひらさわ・かんた|1997年、東京都生まれ。〈FOLL〉デザイナー。2020年にベイクルーズ入社後、新卒2年目で〈FOLL〉を立ち上げる。服飾の知識とファッションへの愛情を注ぎ込んだモノづくりに定評がある。現在は〈ジャーナルスタンダード〉の別注企画にも携わる。

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