カルチャー

モノを「運ぶ」見えざる人々の手を体感する『物流博物館』。

東京博物館散策 Vol.2

photo: Hiroshi Nakamura
text: Ryoma Uchida
edit: Toromatsu

2024年12月15日


公立ミュージアムに、私設ミュージアム、記念館に資料館、収蔵品を持つギャラリーなどを巡ってゆくこの企画。様々な文化が掘り起こされる今だけど、歩いて得た情報に勝るものはない。だからこそこの記事を読んだ人もぜひあなたの「東京博物館散策」へ。

 電気・ガス・水道と同じく、暮らしと産業に欠かせない営みであり、日本の血脈である物流。いまや日本の労働者の約30人に1人が関連する仕事をしているともいわれている。今年は、「2024年問題」や映画『ラストマイル』の公開も話題となり、賃金問題や労働力不足など、社会の関心も高まりつつある。しかしながら、物流の全貌や詳細はなかなか知ることがない。

 そんな物流の世界について、歴史から現在を展示・紹介する施設が『物流博物館』だ。1998年に日本初の専門館として日本通運株式会社の協力のもと、高輪にオープンしたここは、物流に関する図書・映像はもちろん、江戸時代の物流の様子を窺い知ることができる模型や資料、荷役道具、明治以降の運送会社の資料や、現代の物流ターミナルを一望できる模型など、物流の様々な姿を幅広く理解することができる。

 マスコットのカーゴ君に挨拶をして、地下へ。ここは「現代の物流展示室」だ。まず目に留まるのは陸・海・空の物流ターミナルを模した巨大なジオラマ。左から鉄道の貨物ターミナル、トラックターミナル、港、空港の貨物地区という四つの物流ターミナルを示していて、前方の端末を動かせば実際の映像を併せてみることができるから、擬似的な社会科見学ができるのだ。

館の目玉ともいえるジオラマ。行き交う鉄道・トラック、コンテナ船・ジャンボフレーターなどを一望でき、物流ターミナルの1日が見られる。

ジオラマでは、コンテナの積み卸ろしも動く。ガントリークレーンのオペレーター作業は大変な集中力を使う仕事なのだ。

館のために専用のモデラーが製作してくれたという模型。かなりの再現度だ!

「物流の要というのがこの陸・海・空のターミナルになります。色んなところで荷物を積み替えながら、人の手に届くわけです。こちらのジオラマでは4分半で24時間を表現していて、夜でも仕事をしてくれていることがわかりますね。ただ、開館した26年前から現実が変わってきている部分もあって。このジオラマのコンテナ船は20フィートコンテナで、当時3100個積める船として製作しましたが、今や世界最大級のものは20フィートコンテナで2万4000個積めるようになっていたりするんです。物を運ぶニーズの高まりと技術の進化を感じます」

 館の学芸員の小緑さんがそう言うように、たしかに、展示されているパネルを見ると、70年代半ばから始まった宅配サービスが80年代頃から一気に需要が高まったことがわかるし、倉庫で実際に使用されているロボットの実物大模型などを見ると、作業員の負担をなるべく軽減できるよう様々な企業が努力していることもわかる。機器を操縦する人々の職人的な凄さや、美術品を梱包する仕事など、生活からはなかなか見えてこない物流の世界も知れた。

「えらべる映像ルーム」では物流に関する過去の産業映画や最近の映像を鑑賞可能。1940年代に制作されたものや、64年のオリンピックの時の様子など、時代の変化をビジュアルで見られるのも嬉しい。

ゲームコーナーは子どもにも人気。体験できる場所が多いのも特徴だ。ちょっと3Dなかわいいカーゴ君に案内されながら、ゲームに挑戦!

物流体験コーナーでは、運ぶことに関する絵本やトラックなどのおもちゃで遊べる「物流タウンシート」、大きなパズルなども用意。家族でも安心して遊べるのも嬉しい。「次世代を担う子どもたちにも楽しんで物流に関心をもってほしい。」と小緑さん。

 1階は「物流の歴史展示室」。年一回の特別展・企画展の期間を除き、主に江戸時代〜昭和までの物流のあゆみを当時の資料、写真、模型などで紹介する常設空間だ。例えば「飛脚」というと軽装で走っているイメージがあるが、帯刀し、馬を使って商品や現金も運んだ民間の飛脚もいたとか、まだまだ知らない物流の話や道具などを実際に見ながら知ることができる。この博物館の最寄りである品川駅の名称は宿場町品川宿に由来するので、一層感慨深い。

明治初期の新橋停車場の荷物積み卸ろし場。鉄道やトラックの発展とともに物流は飛躍するわけだが、その積み卸ろしなどは1960年代以前は人力なのだ。

実際に昔の道具を使って持ち上げる体験もできる。写真は「背負梯子」。他には「米俵」なども。俵の約15キロを持ち上げるのも相当大変だったけれど、実際の俵は65キロほど(!)個人的には「背負い梯子」の方が運びやすかった。ちなみに、江戸幕府の飛脚は手紙をバトンタッチしながらリレー形式で運搬していて、一番早い便では江戸〜京都の500キロを2日半で走っていたそうだ!

最近ちょっと気になっていた風呂敷での包み方も学べる。こんなに種類があったのか。

写真提供:物流博物館

「自給自足でもしない限り、物流なしでは生活は成り立ちませんよね。ただ、物流はシステムなのでなかなか目には見えづらい。そんな“縁の下の力持ち”ともいわれる世界を、少しでも関心を持って、理解していただくのがこの館の役割だと思っております」

 物流の歴史は物を運ぶための工夫の歴史。馬や牛、人間や自然の力だけで物を運んでいたときから約150年。寝静まった深夜も、年末年始も、「運ぶ」という営みは続く。その面白さ、大変さ、そして、荷物が玄関まで届く「当たり前」を成り立たせてくれる見えざる人々の仕事に、感謝の気持ちを感じる。

インフォメーション

モノを「運ぶ」見えざる人々の手を体感する『物流博物館』。

物流博物館

◯東京都港区高輪4丁目7−15 ☎︎03・3280・1616 10:00〜17:00(入館は16:30まで) 月・第四火、祝日の翌日、年末年始(12月28日〜1月6日)休

モノ(商品)が生産され、消費者にいたるまでのながれが物流だ。ここは、1958年に日本通運本社内に設立された「通運資料室」を前身としており、文書史料約6,000点、美術工芸資料約200点、実物資料約1,000点、写真資料約10数万点、映像資料約200点、図書資料約15,000冊を収蔵。物流全般について紹介することを目的とし、体験スペースではしゃぐ子どもの姿も。現在は企画展「鉄道古写真展―鈴木直利氏コレクションから―」を2025年1月26日(日)まで開催中。詳細は公式サイトにて。

Official Website
https://www.lmuse.or.jp/