TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】なぜタンタン?

執筆:勝見充男

2024年12月5日

勝見充男


photo: Yuki Sonoyama
text: Mitsuo Katsumi
edit: Eri Machida

 いくら古着好きとはいえ、この歳になると、直しだらけの洋服は、着ていく場所が限られる。だから、スーツで行かなくてもいい仕事場には、おのずと新品に近い物を選ぶ事になる。そのような時、どこのブランドが好きかと聞かれたなら、フランスのリヨンで作られている”アーペントル”と答えるだろう。「現代の伝統的なフレンチスポーツウェア」と掲げられていて、デザインのみならず、例えばコットンのコートなど、生地にロイヤルネイビーに使用されている、”ベンタイル”を使用していたり、買った時には肩が凝るほど重く堅いメルトン生地が、五年も経つと身体に吸いつくように馴染む質感は、”アーペントル”ならではの頼もしさがある。また、それぞれの商品に付いている大きな紙のタグに描かれている人物のイラストが、フランスらしい軽妙さがあり、ちょっとした楽しみなのである。そのイラストレーターを調べてみたら、あの”タンタンの冒険”の作者、エルジュの弟子との事。「あー、タンタン、いつもスヌーピーのような白い犬を携えている飄々としたキャラクター」と頭の中で思い描いていると、不易に、昔、ミシュラン人形のグッズを集めていた事を思い出した。「あれ?今度はタンタンか?」と頭に浮かんだのである。

 早々に、知り合いの古着屋に、Tシャツはないかと問い合わせてみると、一軒目は売り切れ。二軒目は一枚在庫があると聞き、そそくさと買いに出かけた。同時に、色々検索したら、今回紹介する腕時計が出品されていたのである。世界で500個限定でシリアルナンバー付き、というのも所有欲がそそられ、即買いした。また、タンタンは世界中にコレクターが居る、という情報もあり、出遅れた感があったが、それでも今年の夏は、五、六枚のタンタンモチーフのTシャツを手に入れた。

 なぜ、今、タンタンが気になるのか、それは、タンタンの普段着の、茶色のパンツに青いニットというコーディネイトに依る事も大きい。かねがね私は、ヨーロッパ、特にイギリスかフランスにおいて、最も”らしい”色使いは、茶色と青の組み合わせであると思っている。この配色は、日本やアメリカには少なく、寒々しいイメージがある国の、少しローカルな雰囲気が漂い好きなのだ。

 この稿にあたり、棚の奥に長い間眠っているマグカップを思い出した。茶色に青のストライプがあるこの一点は、四十年も前に、イギリスの片田舎で求めたものだ。この子供用のマグカップは、あまりに使う事がなく、それでもこの配色が気になって、今まで手離さないでいた。

 若かった当時を想い、これで一杯、コーヒーを飲むのも良いが、それより私は、これから一体どのような物にうつつを抜かしていくのだろう、と、期待しながら筆を置きたいと思う。

プロフィール

勝見充男

かつみ・みつお|1958年、東京、新橋に、骨董家の次男として生まれる。学生時代に西洋骨董に惹かれ、やがてやきものをはじめとする和骨董の世界に魅せられていった。西洋骨董家で10年修行の後、祖父からの屋号、自在屋を継いで四代目となった。自在屋に相応しく、和洋の枠を超えた自由な、発想と、柔らかく洒落たセンスで新しい潮流を作り続けている。テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」鑑定士。著書に「骨董自在ナリ」(筑摩書房)「そう、これも骨董なのです」(バジリコ)「骨董屋の盃手帳」(淡交社)「勝見充男大全」(目の眼) 他に雑誌などで監修、寄稿も多数。