カルチャー

“三好彩花”という役と向き合うのは苦しかった。

映画『本心』の三吉彩花さんにインタビュー。

2024年11月8日

photo: Takao Iwasawa
styling: Junko Okamoto
hair & make: Yudai Makino
text: Nozomi Hasegawa

シャツ¥69,300、スカート¥69,300(ともにヨウジヤマモト/ヨウジヤマモト プレスルーム☎️03・5463・1500)

 AIは人の心を再現できるのか……。テクノロジーの進化が人間の存在を揺るがすヒューマンミステリー『本心』が11月8日に公開される。

©2024 映画『本心』製作委員会

 主人公は工場で働く青年、朔也。「帰ったら大切な話をしたい」と告げた母親が氾濫する川べりに立つ姿を目撃した朔也は、助けようと川に飛び込むものの重傷を負ってしまう。そして、目覚めたときには1年が経過していた。生前に“自由死”を選択していた母はすでに亡くなり、ロボット化の波で勤務先は閉鎖。激変した世界に戸惑いながらも必死に追いつこうと生活をする中、AIを駆使して仮想空間に亡くなった人間を蘇らせる最新のAI技術「VF(ヴァーチャル・フィギュア)」を知る。「母の本心を知るためにVFを使って蘇らせたい」。その思いから、生前の母の親友・三好に接近し、自分の知らない母の情報を探っていく。

 今回は、自身も「過去のトラウマから人に触れられない」という苦悩を抱える三好役を演じた、三吉彩花さんに話を聞いた。

©2024 映画『本心』製作委員会

ーー今回“三好”彩花役を演じられましたが、ご自身と漢字一文字違いの同名役を演じることが決まり、どんな心境になりましたか?

 このお話をいただいたとき「これは運命か」と思いました。そして「自分の本心は一体どこにあるのかな……」ということも考えました。参加することになった去年の夏頃は「自分にとって何が楽しいのか」「何をやりたくて何をやりたくないのか」と悩んでいて、自分と向き合うことを遠ざけていたんです。でも、この作品をきっかけに向き合うことに決めました。自分を知ろうとする過程で、家族と向き合う時間も増えて。役作りをすることもできましたし、結果的に私生活が変化するきっかけにもなったと思います。

ーー過去の傷を抱え、本心をなかなか出せない役でしたが、三吉さんはご自身の本心を出すのは得意ですか?

 どちらの場合もありますね。ネガティブな意味ではなく、本心を出さない方がいい場面もあると思うので。時と場合に応じて本心を出すことももちろんあります。

ーーご自身と彼女で似ている、と思う部分はありましたか?

 三好は過去のコンプレックスを抱えながらも、これまでの人生やこれからに嘘をつくのはすごく嫌だと思っていて。乗り越えなくてはいけない壁が高くても逃げずにいる芯の強い女性なんです。その芯の強さは自分自身も持っていると思いました。とはいえ、“三好彩花”と向き合うのはすごく難しかったですね。彼女になるために、かなり時間をかけたように思います。

ーー難しい役をどんな思いで演じられたのでしょうか。

 撮影中は心がずっと苦しくて、戸惑っていましたね。今までさまざまな作品に関わらせていただきましたが、トップスリーに入るほどしんどくて。「楽しかったな」「上手くいったな」と思う瞬間は一度もありませんでした。でも、これまでに経験しなかった時間を過ごすことができたので、今振り返ってみると演じてよかったように思えます。

ーー朔也が昏睡状態から目覚めた2026年は、遠く離れた依頼主の指示通り動く「リアル・アバター」という仕事が普及していたり、新たに「VF(ヴァーチャル・フィギュア)」という技術が生まれたりと、テクノロジーが進化した時代として描かれていましたが、もし実際にその未来が訪れたとき、三吉さんはすぐ順応できると思いますか?

 順応はできると思います。でも、朔也のように「誰かを蘇らせたい」という気持ちにはならないかな。

ーー実際に出来上がった作品を観て、三吉さんの目にはどのように映りましたか?

 まだ1回しか観れていないのですが、そのときは客観視できなかったんですよ。進化したテクノロジーを表現するシーンがどのように物語と関わっているのか、三好の人物像はどのように描かれているのか、試写会や劇場公開の際に皆さんの感想も聞きながら、もう一度、二度、みたいなと思っています。

インフォメーション

“三好彩花”という役と向き合うのは苦しかった。

本心

平野啓一郎の小説を映画化。なぜ母は“自由死”を選んだのか。母の本心を知りたくて、朔也はAIで彼女を蘇られせるーー。テクノロジーが進化する時代を彷徨う人間の本質を描くヒューマンミステリー。監督・脚本を務めるのは『川の底からこんにちは』、『舟を編む』、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』を手がけた石井裕也。三好役の三吉彩花のほか、主人公の朔也を池松壮亮、母を田中裕子が演じる。全国公開中。

Official Website
https://happinet-phantom.com/honshin/

プロフィール

三吉彩花

みよし・あやか|1996年、埼玉県生まれ。’10年に雑誌『Seventeen』のモデルに抜擢。’23年には日韓共作映画『ナックルガール』(Prime Video)の主演を務める。

Instagram
https://www.instagram.com/miyoshi.aa/