ニューアルバム『Jonah Yano & The Heavy Loop』を今年10月にリリースしたJonah Yano(ジョナ・ヤノ)。広島生まれ、カナダ育ちのシンガーソングライターだ。新作は、実験精神に溢れたサウンドがクセになる名曲揃い。何度も繰り返し聴いて、まさにヘビーループ中。これまで、BADBADNOTGOODやClairoなど、錚々たるアーティストたちとコラボレーションを果たしてきた、期待の新星である彼が緊急来日しているとの噂が!
この日は代官山のコーヒーショップ『mum coffee』にてアコースティック・ソロライブの日。リハ終わりのジョナさんにアタックして、新作の話はもちろん、その生い立ちから東京やカナダでの生活について、好きな音楽や好きな公園についてなどなど、気になることをたくさん聞いてみました。記事の最後には特別なライブ映像も掲載中! 来年1月のビルボードライブ東京&大阪での公演への予習にも。それでは、ぜひ読んでみて〜。
僕たちは「みんなどこか別の国から来たんだ」という考え方。
ーーこんにちは。今日はよろしくお願いします。来日中はどこに滞在していますか?
こんにちは! 普段はカナダのケベック州モントリオールにいて、東京にいる間は、主に幡ヶ谷に滞在してるよ。ローカルな雰囲気で、静かでめーっちゃカッコいい街だね。
ーー広島にルーツがあるとお伺いしました。どのような幼少時代を過ごされましたか?
家は東広島市内の小さな町だったはず。母はカナダにルーツがあって、4歳の頃に一緒にカナダへ行ったから、日本での子ども時代は短かった。でも、近所の人たちのことや、保育園のころにウサギを2匹飼っていたことなんかも覚えているよ。
ーー音楽へ興味を持ったのはいつからですか?
音楽に最初に興味を持ったのは、祖母にピアノを教わった6歳か7歳くらいかな。祖母はよく僕の子守をしてくれていて、その辺りでピアノを弾き始めたんだ。でも、音楽に対して執着を持ったとかそういう感じじゃなくて、ゆっくり興味を持っていって、徐々に今に至っているかな。
ーーでは、その過程で影響を受けたアーティストはいましたか?
一番影響を受けたのは、カナダのSSWのファイストかもしれない。実験的かつ冒険的なサウンドで、いろんなリスクを取りながらも活動を続けていて、僕はその姿勢をとても尊敬しています。だから彼女の楽曲をたくさん研究しているよ。
それから、ティルザは本当に好き。彼女はプロデューサーであり親友のミカ・レヴィと素晴らしいアルバムを作っているね。彼らのコラボレーションは天才的だと思う。それに、ジャズの偉大な歴史にもすごく影響を受けている。チャーリー・パーカーやジョン・コルトレーン、オーネット・コールマン、マックス・ローチなど……多くのジャズの土台となった素晴らしい音楽すべてに。
ーーカナダは多民族国家で「多文化主義」を取り入れる国ですね。育ってきた環境がジョナさんに与えた影響はありましたか?
とてもいい質問だね。うん、確かにカナダの環境は、異文化や人々のさまざまな苦悩や希望、伝統などについて多くのことを教えてくれた。カナダで育つと、隣人には白人がいて、そのまた隣にはベトナム人の家族がいて、先住民の家族がいて、黒人の家族がいて、僕みたいに日系の家族がいて、みんなが同じ通りに住んでいるんだ。
10歳くらいの時かな。友達の家によく夕食を食べに行っていたし、友達もよく僕の家に来たていた。で、お互いの家で互いに美味しいとは思えない料理を食べるんだ(笑)。そうやってみんな文化をシェアしながら大人になっていくんだ。
カルチャーショックというのか、人と人をつなぐものというのか。それがカナダ人のアイデンティティみたいなものなのかな。大多数の人はルーツを持っていて、僕たちは「みんなどこか別の国から来たんだ」っていう考え方があるのかもしれない。……いずれにせよ、カナダはとても若い国だと思う。だからこそ、その文化や問題点をめぐる多くの言説のようなものがあって。“混ぜこぜの面白さ”みたいなもので結びついているんだと思うよ。
だから、多文化的な社会環境で育ったことが、僕の世界観を形成したんだと思います。もしその頃の僕がいなかったら、もっと寛容でオープンなものにはなっていなかったかもしれないなあ。
ーーアーティストになるまでのターニングポイントは?
最初のタイミングは、トロントで初めて曲を書いたときかな。携帯電話で録音してSoundCloudにアップしたんだけど、あまり良くなかったから、今はもう削除しちゃった。でも、それが決定的な瞬間だったのは間違いないな。
その次は『Nervous』という曲を書いてレコーディングして、初めてBADBADNOTGOODとコラボしたことかな。それで、彼らのような人たちが僕と一緒に仕事をしてくれるなら「本当にやってもいいんだな」って思ったんだ。
その次のタイミングは、日本で父と再会したこと。その瞬間が、音楽を作ることで自分にとって意味のあるアーティストになれるんだ、ということを初めて実感した瞬間だったと思う。単なる歌以上のものをね。「Shoes」は、音楽がただの音じゃなくて、芸術の形にもなりうると気づいた最初のタイミングであり、決定的な瞬間だった。
前作の『Portrait of a Dog』はBADBADNOTGOODと作ったアルバムで、このアルバムをとても誇りに思っているよ。そして! 今回の最新アルバムが次のターニングポイントになると思う!
ーーBADBADNOTGOODやClairoなど、アーティストたちとの出会いや交流はどこから?
ライブに行ったり、アルバムのリリースパーティーや地元のバーなどに行ったりすることかな。それからアーティストが住んでいるような街に行くことだね。大都市であっても、人々がたむろできる場所は実はとても小さい。小さいからこそ、音楽のシーンでは、お互いを必要とする人々が一緒にいて、何か共通するものをシェアしていく必要があると思う。
ただ話したり、知り合ったりするために、アーティストがいる場所に顔を出すことは重要なことだと思うんだ。それは、必ずしも何か意図があるわけじゃなくて、ただ自分と同じことをしている人と関わりたいから、アイデアを共有したいから、好きな音楽の話をしたいからってことだね。
もうひとつの方法は、インターネットや友達を介して紹介し合うことかな。例えば、BADBADNOTGOODはトロントにいて、僕もトロントに引っ越してきた。音楽のためではなかったけれど、彼らがトロントにいることは事前に知ってもいた。そして、僕が曲を制作していて、それがいい感じになり始めた絶妙なタイミングで出会うことができたんだ。他のアーティストと同じように、自然なコラボレーションだったし、それが音楽の醍醐味だと思うんだ。時間をかけてでもいずれはいろんな人に出会いたいよ。
ーー昨年の日本でのライブはいかがでしたか?
昨年、日本で公演をしただけでも本当に刺激になったし、自分たちの音楽を追求するために何をしたいのか、色々と考えるきっかけになったよ。それから日本での公演は、音楽ファンとの交流や普段とは異なる雰囲気がとても興味深かったな。
ーー異なる雰囲気?
カナダとかヨーロッパとかとの違いかなあ。例えばライブでは、カナダとかだとただ騒いでいるだけの場合も多いけど(笑)日本の人たちは、やっていることにとても注意深く、興味を持って聴いてくれる。その状況を尊重してくれるんだ。だからお客さんがライブに来てくれることは本当に励みになるし、日本のお客さんのためにももっと頑張ろうという気持ちになるよ。
あと、日本での旅は素晴らしくって。実は今回のアルバムに収録したいくつかの曲では、「またここに来たぞ」というようなことを歌っているんだ。
その一方で、日本では本当にリラックスしていられる。東京で過ごした時間が長いから、観光地巡りみたいなことをする必要がないんだ。自転車に乗ったり、友達と居酒屋とかで会って、早めに寝て、スナックに行ったりとかね。健康的な日常。いいことだよね。
スタジオに入ってみたら、自分を小さいと思うことへの抵抗を感じた
ーーでは、そんな新作について色々お話を伺いたいです。アンサンブル・バンドとともに収録されたアルバムですが、 制作にあたって、全体を通してイメージしたことはなんですか?
本作の全体的な主なアイデアは「バンド」なんだ。この3年間に僕のバンドに加わったメンバーと、一緒に曲を書いたという感じ。僕が一人で作曲したものもあるけれど、ほとんどは一緒に書いた曲なんだ。コラボレーションを祝福したかった。それは本当に特別なことだと思うから。
そして、もうひとつのアイデアとしては、一つの作品の中で2枚のアルバムにすることだった。最初の7曲は、僕の残りの人生、僕が考えていること、やっていることを歌っているんだけど、後半の「Heavy Loop」という30分の曲で、バンドのありのままの姿を表しているんだ。これがすべてのサウンドの骨格のようなものでもある。編集も考えもなく、ただ「バンド」なだけなんだ。
A面は、曲の完成度を高めるために時間をかけたけど、B面はフリースタイルってことだね。
ーーアルバムタイトルにも用いられたバンド名「Heavy Loop」の意味について教えてください。このワードは哲学者フリードリヒ・ニーチェが提唱した「永劫回帰」とも関係ある?
そう。日本語ではバンド名の「Heavy Loop」を永劫回帰(Eternal Return)の語を用いて訳しているよね? というのも、日本語で「Loop」の意味を直接表す方法がなかったからなんだ。
「Heavy Loop」というアイデアは、人生の循環的な性質のようなものだと思っているんだ。生きて、死んで、食べて、お腹が空く。小さなループ、大きなループ。そのすべてに浸透している感覚が、僕にとっての「Heavy Loop」であり、永劫回帰のようなものなんだ。世界に対する尊敬と畏敬の念、そして自分がその一部であることを受け入れ、抵抗しないこと。「Heavy Loop」は多くのことを意味していると思う。
それから、「Heavy Loop」というのは、僕とバンド・メンバーの間に存在する曲のアイデアとして始まったんだ。僕とバンドの音楽的なつながりや、僕らが一緒に作り上げた音のことを指している。たとえ静寂の中でも僕らが作り上げてきた音や響きはたしかに僕の中に存在しているんだ。楽器をアンプにつないで演奏すればその音が聞こえてくるわけだけど、でも、その音は取材中の今も鳴り続いていたり、鳴っていなかったりするんだ。その音は僕ら全員のつながりそのものだから。僕はそう考えているんだ。
ーー歌声に変化もありましたね。
そう! 主な変更点は、ギターを通して歌うようになったこと。ボーカル用の高価なマイクじゃなくて、古いギターをコンサート用のマイクみたいに用いて、別の安いマイクで録音しているんだ。そうすることで、サウンドがとても小さくコントロールされたものになるんだ。より質感のある音になったと思う。それが大きな違いだね。
ーージョナさんのスタイル?
いや、ファイストからだよ。以前、彼女のボーカルを担当したエンジニアと話していて、彼から聞いたんだ。彼らがやっていることを簡単にいうと、ヴォーカルを録音するマイクを半分ずつに分けて、録音したそれを一緒にすることなんだ。僕はそのアイデアを取り入れて、さらに録音する音をギターだけに絞りたいと思ったんだ。その方がソフトになると思ってね。
ーーそんな工夫があったんですね! レコーディングや作曲の過程も教えてください。
作曲のプロセスはとても自然発生的で、ただただ楽しい。これまでは、悲しいことや辛いことを書いていたような気がするな。でもこのアルバムでは、バンドと一緒にずっと楽しみながら、曲を書いたり、ジャムったり、アイデアを思いついたり、とにかく何でも出てくるんだ。そして聴き返すと「ああ、これはいい」と思える。
色々なものを移動させたり、足したりすることも考えたけど、曲の核は音から生まれるものなんだ。だから自然に生まれた音のきらめきを維持することに全力を尽くしたんだ。このアルバムに収録されていることは、僕らが事前に話し合ったことではなく、ミュージシャンや僕が自発的に決めたことなんだ。
「Heavy Loop」というバンドは船みたいなものだから、レコーディングでは、瞬間に集中して、世界の小さな一部であることを意識しようとしたんだ。でも、いざスタジオに入ってみたら、自分を小さいと思うことへの抵抗を感じたんだ。
スタジオでのこの瞬間は、自分が守ることができる瞬間であり、起きた事実を表現し、残すために使うことができる瞬間なんだと。「Heavy Loop」といっても、何もすることなく、人生に飲み込まれる必要はないんだ。だから、レコーディングのプロセスを重視したり、自発性を捉えたいというアイディアはそういう気持ちのあらわれなんだと思う。
ーーアルバム7曲目『Someone Asked Me How I’ve Been』には「Setagaya」のワードもでてきましたね。どんな思い出があるのですか?
前回東京に来たときは、羽根木公園近くのアパートに泊まっていたんだ。毎朝『FUGLEN』とかにコーヒーを飲みに行って、ベンチに座っていたんだ。子供たちはみんなスポーツをしていて、梅の木々もとても美しかった。
正直なところ、人生で色々なことがあって、辛い時間を過ごしていたんだ。だから、あの公園に座って音楽を聴きながら思考を巡らしていたのは、僕にとってとてもいい思い出なんだ。「Someone Asked Me How I’ve Been」を書いたときは、誰かに元気かと聞かれて「大丈夫、元気」と答えなきゃいけないような、でも心の中では超大丈夫じゃないみたいな、そんな気持ちだった。だから世田谷のいい思い出が、韻を踏んでいるんだ。それは超重要なことだったんだ。
ーージョナさんにとって「楽曲制作」とはどんな意味がありますか。
自分を形作る一番の要素だね。曲作りは、自分に起きる出来事のなかでも最高にラッキーなことだと思う。何かを整理できるような気がするんだ。洗濯物を片付けたりしていると、とてもいい気分になるよね。さあ、整理整頓して、きれいにしよう、みたいに。ソングライティングは、僕にとってその10万倍以上の感覚なんだ!
曲を完成させたときや、曲の中で自分の考えや気持ちを整理したとき、 自分自身が何を話しているのかが、今までより明確に理解できるような気がするんだ。まるで日記のようなものなんだ。何かを純粋に理解することに近づいていくような。
飽きることがない、最後まで追いかけ続ける魔法なんだ。
ーー日記、瞑想にも近いのかな。では、理想の1日の送り方を教えて。
朝起きて、近くの好きなカフェに行って、コーヒーを飲んで、本を読んだり、携帯で趣味のチェスをしたり、友達にメールしたりして、ゆっくり一日を始める。それからしばらく音楽を聴いて、ランチの場所やコンビニに向かって歩いたりする。ひとりで、あるいは誰かと一緒に食事を楽しむ。でも、ひとりでランチを食べるのが好きだから、モントリオールにいるときは、おいしいサンドイッチを食べたり。東京にいるときは『おにやんま』でうどんを食べたり。
夜は、友達と会ってビールやお酒を飲んで、ただ話して、冗談を言って、仲良くなって、社交的になる。そして家に帰る。好きなテレビ番組の1エピソードを観る。それから自転車でどこへでも行く。そうそう、気温は25度くらいで、晴れていて風もない。完璧な日だ。こんなこと言ったことないけど、それが僕の日課だ(笑)
ーー最後に、POPEYE Webの読者にメッセージをお願いします!
10月4日に新しいアルバムがリリースされました。自分にとって新たな方向性の音楽になったと思っています。このアルバムには日本についても触れた部分があるんですが、実は、次の作品ではもっと日本での自分の体験を反映させてみたいとも考えているんです。
そして! 1月6日(月)、8日(水)に大阪と東京の『ビルボードライブ』でバンド全員と一緒にライブをします。フルバンドの生演奏で聴いていただける絶好の機会なので、ぜひ来てください。アルバムもいいんですが、やっぱりスタジオでの生音のエネルギーが一番好きなんです。
アルバムに興味を持っていただけたなら、ぜひライブにも足を運んでいただけると嬉しいです。きっと楽しんでもらえるはず!
おまけ。
インフォメーション
Jonah Yano
じょな・やの|1994年、広島生まれ。モントリオールを拠点とするシンガーソングライター。2020年にデビューアルバム『souvenir』を発表。故・ヴァージル・アブローやジャイルス・ピーターソンら各界から注目を集める。2023年には、BADBADNOTGOODが全編プロデュースした2nd『Portrait of a dog』を発表。凱旋ツアーも成功させ、2024年10月に3rd『Jonah Yano & the heavy loop』をリリース。
Jonah Yano & The Heavy Loop LIVE IN JAPAN 2025
2025年1月6日(月)ビルボードライブ大阪(1日2回公演)
1stステージ 開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ 開場/開演:19:30/20:30
BOXシート:18,900円(ペア販売)
S指定席:8,900円
R指定席:7,800円
カジュアルシート:7,300円(1ドリンク付)
2025年1月8日(水)ビルボードライブ東京(1日2回公演)
1stステージ 開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ 開場/開演:19:30/20:30
DXシートDuo:20,000円(ペア販売)
Duoシート:18,900円(ペア販売)
DXシートカウンター:10,000円
S指定席:8,900円
R指定席:7,800円
カジュアルシート:7,300円(1ドリンク付)
※料金は飲食代金別
※チケットはビルボードライブ公式HPおよびプレイガイド(e+・ぴあ)にて発売中。
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