TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】寝起き嫉妬

執筆:甲田まひる

2024年10月4日

夏はなんといってもエレヴェーターが臭い。
人々の汗や体臭が混ざり合い、こもった熱がそれらを助力する。クーラーなどのないビルやマンションだと、とにかく暑い。

乗ると、最後に乗っていた人たちの余韻を感じる。
誰がどこの位置に立っていたのだろう、その人はどんな顔だったのだろうか、などと考えながら行き先ボタンを押す。たまに押せておらず、自ら長くその空間にいることになる現象がしばしばある。
あのボタンが並んでいるパネル、かご操作盤というらしい。

天気が良いと、気分が下がる。
そんな自分が好きでも嫌いでもない。
とにかく日差しが嫌いになった理由はたくさんあるが、皆幼少期に人に言われたことなどがずっと頭に残って、他人には分からないようなささいなことに敏感になってしまうことはよくある話だ。

昨日、初対面の人に、好きな顔。と言われた。
しかも自分があまり好きではないパーツを褒められた。びっくりしたけど嬉しかった。
今朝スキンケアする時も思い出して口角が上がってしまった。
その日何度も思い出した。

他にも悩みはあっても、別の嬉しい言葉をもらうだけでなんだか全部が帳消しになった気がすることがあるよね。なにげない一言が誰かを幸せにして、それを受けた私のような人がまた一人、誰かに幸せをあげたいと思う。

素直な人は可愛い。
今度彼女に会えたらお礼を言おう。

家を出てすぐに片方充電が切れたAirpodsに、イライラする。たまには意識して環境音を聞いてみると、普段気づかない何かに気づくなどの綺麗事はもういい。
なんて投げやりな思考になっている私は、どうにか最短でG Herboを耳に流し込む手段を考える。
近くのコンビニでモバイルバッテリーをレンタルするか、できずに目的地まで行く。
思ったよりあっという間だ。

改札、駅のホーム、車内、そしてまた帰りも同じルートをもう一度。
今日もその間に何度「すみません」「ごめんなさい」と言っただろうか。
ぶつかってしまったり、自分が邪魔になりそうなときはもちろんだが、相手側にそうされそうになった時も何故かとっさに謝ってしまう。すれ違った後、自分はどれだけ臆病な人間なのかと力を落とす。

文章で綴ると日常にネガティブが溢れているようだが、それがリアルなのかもしれない。もちろん良いことが多い日だってある。
そんなバランスで生きてるのは、私だけではないと思う。今読んでくれているあなたにもどうにもならない夜があって、どうってことない顔で始める朝があるだろう。

押し潰されそうな時、少しで良いから、誰かに話せれば良いな。
そして聞く側は、自分が同じ状況になった時にどうしてもらえたら嬉しいか考えるんだ。

そいえば今日も明日も、自分より笑顔でいて欲しい人がいる。
それだけで幸せだ。

ん?自分の曲に歌詞を当てるときはこんなに言いたいことがすぐに生まれないのに。。
言葉が詰まって前に進めない時があるのにな。
作詞という作業はやはり私にとって、ただ言葉を連ねることではなく、かなり音楽的な工程だということに気づく。

「らぶじゅてーむ」の制作をした当初は、ヤンキー高校が舞台となっているアニメの世界観をどう歌詞に落とし込もうか考えていた。

まずは教室での出来事から始めたかった。
“始めるカウントダウン”は、授業の終了を知らせるチャイム。途端に元気な生徒達が教室を飛び出していく。

そんな光景に呆れながら視線をふと窓際にうつすと、
頬杖をついた、自分と似たような”君”と眼が合うのだった。治安の乱れた校内で、心臓だけがのぼせていくのを感じた。

ここに帰着するまでに、学校の屋上に出てみるというアイディアもあった。(笑)
現実逃避したくなって、ただ遠くを眺めている主人公。終わりの見えない曇り空が広がっている。

そんな情景と共にふと頭に浮かんだのが、遠藤周作『海と毒薬』だった。数年前に読んでとても記憶に残っている作品である。完全に似たシーンがあったか定かではないが、きっとのなにかしらの脳内サンプリングが行われたのだ。
数分間、内容を思い出しながらあまりにもポップさに欠けるなぁと思い、却下したのだったが。

さて、最後こそシンプルにと思い、自分の過ごした1日をメモに記していたら夜中になっていた。

夢の中でも、普段関わる人が手で触れそうなくらいの生々しさで現れて、自分との関係性が描かれることが多い。
または、現実よりはるかに楽そうに、それも妙にかっこいいメロディーを生み出している自分がいるかどっちかだ。目覚めて嫉妬する。

荒唐無稽な夢も時々あるが、きっと忘れているのだろう。
甲田まひるは、夢の中でも休む暇はないようだ。
まだまだ止まれない。
その間、いつかまた読めるかもしれないコラムの続きを、楽しみに待っていて欲しい。

プロフィール

甲田まひる

こうだ・まひる|2001年生まれ。東京育ち。ジャズピアニスト、シンガーソングライター、俳優、モデル。2017年に甲田まひる a.k.a. Mappyとしてビバップを中心としたジャズ・ピアノ・トリオ・アルバム『PLANKTON』を発表。昨年には自身初となる1stフルアルバム『22 Deluxe Edition』をリリース。2024年1月にはTVアニメ「ぶっちぎり?!」のエンディング・テーマ『らぶじゅてーむ』を、5月には『れんあいパン』をデジタルリリース。

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