フード
洗濯の歴史って知ってる? 下丸子の『五十嵐健治記念洗濯資料館』へ。
東京五十音散策 下丸子①
2024年9月15日
photo: Hiroshi Nakamura
text: Fuya Uto
edit: Toromatsu
東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどをぶらりと周っていく連載企画「東京五十音散策」。「し」は下丸子へ。
少しずつセーターやウールのシャツが棚の一軍へ戻りつつある今日この頃。重衣料が着られるワクワクを感じている一方で、毎年モヤモヤしているのが洗い方だ。キッズサイズへ縮んでしまうのはこの上なくつらい。気にしたことなかったけれど、クリーニングのイロハを知る必要があるのではないだろうか。下丸子にぴったりのところがあるじゃないか。クリーニングの本丸「白洋舍」本社ビルの一角に、洗濯文化そのものを学べる資料館が。
下丸子駅からガス橋方面へ歩いて10分、ガラス張りのゲートをくぐると、『五十嵐健治記念洗濯資料館』に到着する。明治39年に創業後、日本のドライクリーニングの道を切り拓いてきた白洋舍がかつて使用していた巨大な洗濯機をはじめ、石けんが発明される前に洗剤として用いられた植物、洗濯桶やザラ板などなど、あらゆる洗濯にまつわる品々が展示されている。中でも、古くは紀元前のヒノシや炭火アイロン(!)といった衣類のシワを伸ばす道具が多く、日本はもちろん、西洋やアメリカ製まで。単純にデザインの違いを見比べられるのもヴィンテージ雑貨店のようで面白い。

当時使っていたアメリカの〈ホフマン〉社が製造したドライクリーニング機械。内側が木製なのは、静電気による発火を防ぎ、衣類へのアタリを柔らかくするため。

仕上げに欠かせない焼きアイロンは、ストーブの上にのせてその熱源を利用する。昭和初期には電気アイロンへと代わっていった(写真左、右)。予想以上にズッシリと重みのある炭火アイロン(写真中)。

今でこそワイシャツといえば襟付きが主流だけど、明治時代は別仕立てにした高さのあるカラー(襟)を身頃に装着していた。西洋の流行を追う洒落者のことを「ハイカラ」と呼んでいたのもここから。

炭火の中で熱して使う鉄製のコテ。アイロンには向かない箇所のシワを伸ばしたりできる。今もまだ老舗テーラーでは使われているとか。

アイロンがけをモチーフとした絵画ポスターも数十枚陳列。こちらはスペインの画家、ピオ・セザール・ロブラ・アルバレス作。
そもそもドライクリーニングとは、文字どおり、水の代わりに油を原料にした溶剤で洗浄する方法だ。生地のダメージがすこぶる抑えられるが、設備と特殊溶剤が必要なため、クリーニング店の専売特許。館長の五十嵐昌治さん曰く、その歴史はフランスから始まっている。
「1840年頃です。フランスの洋服屋だったジョリー・ブレンにより発明され、ドイツやイギリス、アメリカへと伝わりました。その後、同社の創設者である五十嵐健治が日本へ持ち込んだのですが、当時の一般家庭では洋服自体が広まっていなかったので、海軍のウール地の真っ白い制服などを主に洗濯していました。そうして徐々に洋服が着られるようになってからは、『家庭洗濯化学展覧会』を開催したり、洗濯の心得を記した小冊子を配布したりと、地道に普及活動を行いましたね。」


家庭でどのように洋服を洗濯すればいいのか、干し方、シワの伸ばし方まで網羅された小冊子。表紙のデザインもいい……!
和服から洋服へ。今でこそ後者が日常着として当たり前になったけれど、ここまで生活に馴染むようになったのは、根底を支えてきた洗濯のおかげであることがわかる。歴史を辿れば、より一層洋服に丁寧に向き合える気がした。ちなみに今月9月29日はクリーニングの日。
インフォメーション

五十嵐健治記念洗濯資料館
白洋舍が運営する、ドライクリーニングを中心にアイロンや洗濯について学べる資料館。マニアックな歴史はもちろんのこと、昔の道具は構造がシブく、デザイン的に見応え十分。鉄や鋳物がほとんどのため、かつて炊事場や火鉢などで使っていた直火は、生活にとても身近だったのだと感じ取れる。予約は必要ないけど、見学は受付のタブレットから手続きを。入館無料。
○東京都大田区下丸子2丁目11−8 ☎︎03•5732•5111 10:00〜17:00 土・日・祝休
Official Website
https://www.hakuyosha.co.jp/company/museum/
関連記事

フード
演劇のある憩いの場。『座・高円寺「演劇資料室」』。
東京五十音散策 高円寺③
2024年9月10日

フード
ビルの中の”道”で味わう本格チャイ『JULAY chai stand』。
東京五十音散策 高円寺②
2024年9月7日

フード
店主の目が行き届いたフランスワインが揃う街の老舗酒屋『エスポア ナカモト』。
東京五十音散策 桜新町①
2024年9月1日

カルチャー
200年以上続く書道用品店『玉川堂』にずらっと並んだ印のアートピース。
東京五十音散策 九段下③
2024年8月25日

カルチャー
刀剣造りの技法を取り入れたペティナイフを『藤原照康刃物工芸』で。
東京五十音散策 学芸大学⑦
2024年8月20日

カルチャー
取り壊しが決まった古着屋『エンドレス』の集大成とこれから。
東京五十音散策 学芸大学⑥
2024年8月15日

カルチャー
驚きに満ちた「手触り」を探求しに『ハチマクラ』へ。
東京五十音散策 高円寺①
2024年8月11日

カルチャー
町のお客さんの顔を想像しながら。再スタートした古書店『流浪堂』。
東京五十音散策 学芸大学⑤
2024年8月5日

カルチャー
思いがけないテナントの歴史があった『松岡九段ビル』。
東京五十音散策 九段下②
2024年7月30日

ファッション
袖の先までこだわる人はカフリンクス専門店『CUFF SHOP』へ。
東京五十音散策 九段下①
2024年7月25日

カルチャー
美は足元に宿る。日本の住宅事情と相性抜群なオランダ家具を見に『FILM』へ。
東京五十音散策 学芸大学④
2024年7月20日

フード
4年ぶりに学大へ、おかえりなさい『かふぇ りどぅ あんぐいゆ』。
東京五十音散策 学芸大学②
2024年6月30日

ライフスタイル
“減築空間”に世界中のユニークな古物が集まる『銀 吉村』。
東京五十音散策 学芸大学①
2024年6月20日

フード
絶品のあんみつは工場直売の『並木食品』で。
東京五十音散策 錦糸町②
2024年6月10日

カルチャー
写真と映像の美術館4Fにある『東京都写真美術館図書室』。
東京五十音散策 恵比寿③
2024年5月31日

ファッション
刺繍やプリントの入ったひとひねりある古着がほしくなったら、まず向かいたい『marfa』。
東京五十音散策 恵比寿②
2024年4月30日
ピックアップ

PROMOTION
L.L.Beanの春の装い。
L.L.Bean
2025年3月7日

PROMOTION
きみも福祉の仕事をしてみない?/訪問介護ヘルパー・五十嵐崚真さん
2025年3月24日

PROMOTION
きみも福祉の仕事をしてみない?/保育士・佐々木紀香さん
2025年3月24日

PROMOTION
屋外でもアイロン、キャンプでも映画。
N-VAN e: を相棒に、オンもオフも充実!
2025年3月7日

PROMOTION
フレンチシックでカルチャー香る〈アニエスベー〉で街へ。
agnès b.
2025年3月11日

PROMOTION
Gramicci Spring & Summer ’25 collection
GRAMICCI
2025年3月11日

PROMOTION
きみも福祉の仕事をしてみない?/介護福祉士・永田麻耶さん
2025年3月24日

PROMOTION
きみも福祉の仕事をしてみない?/社会福祉士・高橋由茄さん
2025年3月24日

PROMOTION
謎多き〈NONFICTION〉の物語。
2025年3月28日

PROMOTION
〈バウルズ〉というブランドを知りたい。
vowels
2025年3月15日

PROMOTION
僕とアイツの無印良品物語。
2025年3月11日

PROMOTION
足取りを軽くさせるのは、春の風と〈クラークス〉の『ポールデンモック』。
2025年3月3日

PROMOTION
いいじゃん、〈ジェームス・グロース〉のロンジャン。
2025年2月18日

PROMOTION
夏待つ準備を。
Panasonic
2025年3月11日

PROMOTION
〈Yen Town Market 〉がFCバルセロナの新コレクションを展開! 街というフィールドを縦横無尽に駆け抜けよう。
2025年3月21日

PROMOTION
“チェキ”instax mini Evo™と僕らの週末。
FUJIFILM
2025年3月4日

PROMOTION
堀米雄斗が語る、レッドブルとの未来予想図。
Red Bull
2025年3月17日

PROMOTION
〈adidas Originals〉とミュージシャンの肖像。
ASOUND
2025年3月19日

PROMOTION
春から連れ添う〈イル ビゾンテ〉。
IL BISONTE
2025年3月3日

PROMOTION
“濡れない、蒸れない”〈コロンビア〉の新作スニーカーで春夏のゲリラ豪雨を乗り切る。
2025年3月7日

PROMOTION
この春、欲しいもの、したいこと。
Rakuten Mobile
2025年3月7日

PROMOTION
〈OLD JOE〉がソール・スタインバーグとコラボレーションするんだって。
OLD JOE × SAUL STEINBERG
2025年3月7日