TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】私と車の話 BMW2002
執筆:ピーター・アイビー
2024年8月20日
高校卒業後、私はBMWショップで働きました。当時は自分の車を持っていなかったけど、ガールフレンドが私にBMW2002を使わせてくれていたので、まるでそれが私の最初の車のようでした。
そんな20代初めの、クリスマス前の出来事です。クリスマスは日本のお正月のように家族と過ごす伝統的で大切なイベントなので、私は親友のスコットとともに実家のテキサス州へ行く予定でした。私が住んでいたのはロードアイランド州でしたので、イリノイ州のシカゴに住むスコットの家へ飛行機で向かい、そこからテキサスまでは彼の車2002で向かうつもりでした。
でも、スコットの家に到着してみると、彼は1年前に事故に遭ったようで、ボディは前も後ろもボコボコ。エンジンが動かない状態のままガレージに放置されていました。私はすぐに点検し、キャブレターを分解して、ガスケットを清掃し、交換して調整しました。クリスマスまでにもう時間がなかったので最低限エンジンが動くように直したのです。
「さあ、出発だ。16時間運転するんだ。どうか止まらずにクリスマスイブまでに家に帰れますように」
時速120キロでハイウェイを走っていたとき、ヒーターのコントロールが機能していないことに気づきました。暖房はなく、ダンパーを閉じることができず、外気が容赦なく車内を吹き抜けました。その日は寒い夜でした。仕方がないので寝袋の中に入って、首元まで寝袋を被り、でっかい葉巻を2人でやりながら運転しました。イリノイ州の田舎のハイウェイは、山も谷もない、ひたすらコーン畑が続いています。
ところが突然、後方からサイレンが鳴り響きました。私は気付きました。私たちは保険も車検も受けておらず、ナンバープレートの有効期限が切れていることを。それから、私の免許証の期限が切れていることも……。絶望的な状況に落ち込みましたが、ただ、私たちは幸運でした。警察はクリスマス前の私たちの“状況”を理解してくれたので逮捕せず、さらには助手席のスコットの免許証をわざと確認しないでくれたのです。おかげで先に進むことができました。オクラホマシティでガソリンとお金が尽きるまで、できる限り遠くまで走りました。その先には空港があります。そして、移動中に、何時間もかけて、母にどう話そうか考えていました。
いざ伝えると、母は……激怒しました。私は「チケットのお金を送ってくれるなら、ここから飛行機に乗ることができる」と言いました。ありがたいことに母はそうしてくれ、私たちは無事にテキサス州へ行くことができたのです。
数年後、私はスコットからその車を購入しました。自らの手で車を作る計画があったため、それも含めて10台以上のジャンク2002を集めました。そうして私は「ジャンク車」を作りました。不良だけどまだ使える部品で作られた車です。助手席はなく、錆びがひどかったのですが、車検は通りました。私はその車を2年間使いながら、その間に新しいBMW2002を組み立てました。考えてみると、私は“新車”が好きではないにしても、“新品”の車は欲しかったのだと思います。今でもその気持ちは変わりません。
私はまだその車を日本で持っています。車内の香り、そしてエンジンの音が何十年も前のあの頃の思い出を蘇らせてくれます。
プロフィール
ピーター・アイビー
ピーター・アイビー|ガラス作家。1969年、アメリカ・テキサス州生まれ。ロードアイランドスクールオブデザイン卒業後、独立。作品を制作しながら、大学で臨時教諭として働き、吹きガラスの仕事があればどこへでも手伝いに行った。2002年に来日し、2007年に富山県に移住。現在は住まいの隣に構えた工房「流動研究所」で作品制作を行う。
Official Website
https://www.peterivy.com/ja/
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