フード
ピエール・エルメ ガチ勢、紀尾井町に集う。/平野紗季子連載「味な店 SEASON3」
味なゲスト:鶴見昂、田代翔太
2024年8月18日
平野紗季子(以下、平野) 本日お集まりいただいたのはですね、このたび味な店と平野紗季子が〈ピエール・エルメ・パリ〉とコラボレーションすることになったのです!
田代翔太(以下、田代)&鶴見昂(以下、鶴見) おめでとう~!(拍手)
平野 というわけで今日はエルメ有識者のお二人にエルメ愛を語っていただきたく。敬称略で参ります。
田代 会場がホテルニューオータニ(東京)で良かった。どのエルメもおいしいけど、ここがいちばんおいしい。下の階で作ってるから出来立てを食べられるんだよね。
平野 さすが有識者。お詳しい。
田代 僕たち、お正月になるとここに来てるんだよ。エルメ詣で。
平野 えっ! 何それ!
鶴見 イスパハンと好きなパティスリーを食べる、優雅なお正月。ホテルの雰囲気もすごくいいよ。
平野 次回参加させてください! 二人がエルメに出合ったのは?
鶴見 僕はそもそもお菓子に目覚めたきっかけがピエール・エルメで。2000年にドゥ ミルフィーユが出たとき14歳で、こんなに香りが豊かなお菓子があるんだって驚いて。圧倒的に今まで食べてたお菓子と違う。そこでオート・パティスリーの世界に初めて触れたんです。エルメさんがどれくらい革新的だったかというのはあとから知ったんだよね。「新しいものに出合った!」っていうインパクトがずっと残ってる。
平野 モノクロの世界が極彩色に。
鶴見 ほんとそう。色と香りの洪水にぶち当たったというか。
田代 僕は鶴見くんと同い年なんだけど、高校生のときはいちばんイケてるパティシエがエルメさんだった。というか世界でいちばん尖ってたと思う。
平野 へえ。どんなところが?
田代 誰もやったことがないことをやってたんだよね。まず見た目が違う。コレクションを打ち出すようにストーリー性のあるケーキを発表するのがエルメの世界の作り方だった。専門誌で見て「わっ!」と思ってニューオータニに行ったの。それが高2のとき。
平野 えっ、行ったんだ! すごい。
田代 ショーケースに食べたいケーキがなくて、お願いしたら「時間もらえたらご用意できます」って。それも嬉しかったんだよね。どうみても学生だったのに。紗季子ちゃんの最初のエルメは?
平野 覚えてないんだよね、もうすでにあったから。そのうち歴史や背景、自分の文化圏にないフレーバーを入れていくみたいな姿勢を知って余計に好きになって。
田代 僕たちはパティシエで、単純に同業者なんだけど、でも好きを伝えられる。帽子まで被っちゃうし、この気持ちはなんだろう。
平野 この気持ちはなんだろう! まっすぐな問いかけ!
田代 大きいのは感謝かなあ。エルメがいなければ、フランスに行きたいとも思わなかった。大きな理由のひとつだったと思う。
鶴見 とにかく好き。あの頃エルメが世界に出てなかったら、お菓子への理解度が全然違ったと思う。
平野 大きな存在なんだ。イスパハンに出合ったときどう思った?
鶴見 とにかくドラマチックな味! 絵が浮かぶんですよ。中東のペルシャみたいな町で、禿げたおじさんが石の家からバラの花びらを撒いてる様子が……。
平野 何かのMV?(笑)
田代 (笑)。もう、今まで食べたことがない味っていう感じ。当時の日本だとライチといえば冷凍だったし、ラズベリーはギリ輸入品があったけど、飾りくらいにしか使ってなかったんだよ。あとはやっぱりバラ風味って何っていう。
鶴見 スミレとかローズっていうと、僕ら日本人は香水っぽい味だなという印象を持つと思う。それが、バラやフランボワーズやライチと組み合わせることで、こんなにも綺麗なおいしい味になるんだって。フランス人にはその感覚があったんだと思うけど、僕らにもわかるくらい昇華された味にしてくれたよね。
平野 確かにバラって母親の鏡台っていうイメージがあったかも。
田代 うん。僕もまさにその印象で、おいしくないかもな、とも思ってた。でも食べたら全然違って。イスパハンって、バラ風味のフランボワーズのお菓子じゃなくて〝イスパハンの味〟なんだよね。それがすごくない? しかも3つの素材でひとつの味が完成していて、これ以上は何も増やせないし減らせない。
平野 ああ~。この間尊敬する料理人の方が言ってた。「本当に素晴らしい料理とは何も足せない料理ではなく、何も引けない料理だ」って。でもエルメはなんでそれができるんだろう?
田代 スターパティシエみたいなキャラクターが立ってる人は多いけど、エルメは職人という感じ。しっかりと味で個性を表現していると思う。そこが僕は好き。
平野 そっか、まずは技術がないと始まらないもんね。ではイスパハン、食べましょう。(切り分ける)
田代 うん、おいしい!
鶴見 軽いね。ライチって今、旬じゃない? 夏の食べ物だね。
平野 はあおいしい。やばい。
田代 オペラみたいに、お店が作ったお菓子が一般化されることは過去にもあった。でもそれは100年以上前のことで、イスパハンは自分が生きてるうちに生まれたお菓子。これからもずっと残ると思うと、すごいことだなって。
平野 革命であり普遍でもあるんだ。エルメは二人にどんなものを与えたの?
鶴見 もう、いただきすぎてて……。でもなんか、味や技術が大事なんだっていう教えはあるかな。飾りの技術を磨くよりも、味のことをやれって本に書いてあったと思う。
田代 奇抜なケーキもあるから、クリエイティブなことをしようと思いがちだけど、実は逆で、わりと手仕事っぽい組み立て方をするんだよ。それはつまり、自分がいいなと思うものをちゃんと作るってこと。今僕が作るものが、直接的にエルメの影響を受けてるとわかることはないと思うけど、僕としては一緒なんだ。
平野 骨格を作ってくれたんだね。
鶴見 でもさ、ほんと平野紗季子と同じ時代生きれてよかったよね。ありがとう、平野。
田代 ほんとそう。ピエール・エルメの凄さを改めてこうやって伝えてくれるんだから。俺らだけじゃ誰も聞いてくれないよ(笑)。
平野 そんなことないって!(笑)
エルメの言葉は全て受け止めると言わんばかりに、鶴見さんが読み込むエルメの著書。近著『pâtisserie végétale』、自伝『ピエール・エルメ語る』、レシピ集『ピエール・エルメのお菓子の世界』。
インフォメーション
ピエール・エルメ・パリ ホテルニューオータニ(東京)
1998年にホテルニューオータニで創業した、〈ピエール・エルメ・パリ〉ペストリーブティックの世界第1号店。シェフが常駐し、パリと同じクオリティのペストリーをテイクアウトできる。2023年にリニューアル。隣のカフェ&ダイニング『SATSUKI』で食べることもできる。
◯東京都千代田区紀尾井町4-1 ザ・メイン ロビィ階 ☎03·3221·7252 11:00~20:00 無休
\特報/
POPEYEと平野紗季子さんと
ピエール・エルメ・パリがコラボレーション!
これまでもロイヤルホストとタッグを組むなど、味なレジェンド店とグッズをお届けしてきた味な店チーム! なんとこのたび、『POPEYE』とコラボした素敵すぎる〈ピエール・エルメ・パリ〉グッズが爆誕してしまいました~! エルメキャップを被っていた田代翔太さんみたいに! エルメ愛を存分に世の中へ発信できるTシャツとトートが登場。アーティスト・平山昌尚(HIMAA)さんによる「マカロンころころT」に、イラストレーター・三宅瑠人さんのイラスト輝く「イスパハン食べてるとき邪魔しないでくださいT」など、ユーモアと愛に溢れたグッズが続々ラインナップ。きっと二度とお目にかかれない貴重コラボ、買っとけばよかった~って後から絶対なるやつだからどうぞお見逃しなく!
そして! 平野紗季子が代表を務めるお菓子ブランド〈(NO)RAISIN SANDWICH〉もピエール・エルメ氏の代表作イスパハンとコラボレーション! マカロンを思わせるスベスベ手触りの二層式バラ色サブレに、フランボワーズの自家製ジャムをたっぷり絡めた瑞々しいライチと、うっとりするようなバラのバタークリームが溶け合う、田代&鶴見のエルメ有識者からも「うまい!」と太鼓判な一品。〈ピエール・エルメ・パリ〉からは〈(NO)RAISIN SANDWICH〉の定番レーズンサンドをモチーフにしたマカロンが登場です。
インフォメーション
〈ピエール・エルメ・パリ〉×『POPEYE』コラボTシャツ
発売開始:8月20日(火)
場所:POPEYE ONLINE STORE
〈ピエール・エルメ・パリ〉×〈(NO) RAISIN SANDWICH〉コラボスイーツ
発売開始:8月20日(火)
場所:ピエール・エルメ・パリ 青山
プロフィール
平野紗季子
ひらの・さきこ|フードエッセイスト。1991年生まれ。PODCAST番組『味な副音声』がJ-WAVEでも放送中(金24:30~25:00)。菓子ブランド〈(NO)RAISIN SANDWICH〉の代表も務める。
Instagram
https://www.instagram.com/sakikohirano/
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