ファッション
やっぱり外が好き。
スタイリスト・長谷川昭雄と考える、2024年のシティライフ。
2024年4月27日
ぼくと服と東京の暮らし。
photo: Seishi Shirakawa
direction, styling & text: Akio Hasegawa
grooming: Kenichi Yaguchi
text (dialogue): Neo Iida
edit: Shigeru Nakagawa
2024年5月 925号初出
――ヨーロッパには「アペロ」という習慣があるんですよね。
長谷川昭雄(以下、長谷川) そう。ディナーの前にお酒を嗜む文化。こういう『ブラン ア トウキョウ』みたいな店でアペロを嗜むって、なんかいいんじゃないかなと思って。
――豪徳寺にあるお店ですね。
長谷川 店主の大谷さんが初対面でも遠慮せずにいろんな話をしてくれる、すごく気さくな人なんだよ。あと山口さんてソムリエの女の子も明るいし、ふたりともいいなあって。やっぱりどんなに素敵なお店でも、店主がいい感じであるっていうことは第一前提だと思うから。
――気負いなく行けるっていいですね。
長谷川 あ、でもモデルのみんなが飲んでるのは発酵ジンジャーエール。大谷さんの地元の埼玉で作ってる、いろんな味のジンジャーエールが置いてあるんだよ。
――飲めない人も嬉しい。
長谷川 そうだね。確かパリの飲食業態って呼び方がいくつかあるんだって。カフェ、食堂、レストランみたいに分かれてて、大谷さんが働いてたのはフランス語でなんて言ったかな。
――ビストロですかね?
長谷川 いや、違う。……なんだっけな、忘れちゃった。飲んでもいいし食べてもいい、大衆食堂みたいな。ぎゅうぎゅうでパンパンでいつも盛り上がってる、気楽な店にしたいんだって。菊川の『みたかや酒場』みたいな感じじゃない? そんな発想で外の席も作ったのかな。
――外で飲むの気持ちよさそうですね。
長谷川 僕は、外の席があれば絶対外に座りたいんだよね。『アヒルストア』でもよく外で飲んでたし、神楽坂の『ORI』に行ってもそう。できれば外がいい。ロンドンでもパブを覗くと、みんな会社が終わった17時くらいから飲んで、18時くらいにはもう家に帰っちゃうんだけど、ほんと1杯だけ飲みに行く習慣があって。外に人が溢れてて、ということは中もすごいのかなって店内を覗くと誰もいない。みんな外が好きなんだよね。そういうのがヨーロッパ的なのかなと思う。
――下町的とも言えますね。
長谷川 確かに。
――料理もおいしそうですねえ。肉肉しくて。
長谷川 うん、おいしかった。大谷さんは食堂がやりたいから、作るのは洋食がベースで、だから鹿肉のハンバーグには目玉焼きがのってる。軟らかくておいしかった。パンはもう一つの店舗で焼いたものを持ってきてくれる。なんかね、埼玉にも3店舗あって、そっちではコース料理のかちっとしたお店をやってるらしく、だからここではお客さんと会話がしたい、みたいなことを言ってた。大谷さん、お話が好きなんだろうね。色々喋りたいんだろうなって。
――ワインがあるとより会話が弾む気がします。どんなものを置いてるんです?
長谷川 フランスのワインを中心に置いてるって言ってた。色々飲んだけど、フランスのワインがいちばん好きなんだって。
――ヨーロッパのワインの歴史は深いですもんね。辿ると宗教の話にも繋がっていきますし。
長谷川 ああ、そうなんだね。
長谷川 『ブラン ア トウキョウ』は内装がいいよなっていうのが最初に感じたこと。まだできて間もないんだもんね。
――そうですね。昨年の10月にオープンしたそうです。
長谷川 ここの内装の何がいちばんいいと思ったかって、色彩も素敵なんだけど、いちばんはダウンライトをほとんど使ってないところ。東京ってほとんどの店がダウンライトなんだよね、残念なことに。
――どんなところが残念なんですか?
長谷川 例えば料理か何かを撮ろうとすると、影がいくつもできてすごく汚くなっちゃうわけ。あと明るすぎる店って疲れる。もっと暗くていい。
――なるほど!
長谷川 間接照明を使えば光がぶつからないから、食べ物も綺麗に見える。『ブラン』はほとんどの明かりがランプで、ダウンライトはキッチンスペースに一個あるだけ。それも作業上、ないとできないから付けたんだって。
――面白いですね。大谷さんによれば、内装をやってくれた鈴木(一史)さんに「和の文化を入れたい」と相談をしたら、行灯みたいなイメージのライトを探してくれたそうですよ。
長谷川 僕も暗いほうが好きなんだよね。落ち着くな、みたいな。
――長谷川さんのスタジオもそうですね。
長谷川 わりと暗いね。(『AWW MAGAZINE』の)加藤が来てびっくりしてた。「なんかあったの?」って(笑)。でもそのほうが僕は好きで。京都を歩いていると、今から行く店やってんのかなって思うくらい真っ暗なわけ。20mくらい先の店が見えない。近づいていくと開いてるのがわかるけど、近づかないとよくわからないくらい暗めなの。京都はお寺も基本、暗いし、庭から入るサイド光だけ、みたいな美しさに通ずるものがあるのかもしれない。
――鈴木さんの設計って一見ポップなのに、和を感じるって面白いですね。
長谷川 ほんとだね。ガードレールみたいな外の席もそうだし、取っ手にもこだわってるし、扉に入れたロゴの使い方もうまいしね。でもかわいらしさのなかに陰影があるというか。関さんはあのストイックさで、デザインとして何もない状態を作ってるけど、いいディテールがいくつもあって。鈴木さんはもうちょっと作り込みながらも調和させながら、そういう〝見せ場〟を作ってる。そういう意味では、違うようでいて、近いものがあるのかなとも思う。
インフォメーション
ブラン ア トウキョウ
◯東京都世田谷区豪徳寺1-36-3 ☎080·1176·2832 17:00~24:00(LO23:00)、土・日15:00~22:00(LO21:00) 不定休
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