カルチャー

【#2】美しさの選択

執筆: カリン・アラビアン、フランク・ブレー(2023年度9月〜12月ヴィラ九条山レジデント、デザイン)

2024年2月20日

photo: Tomoko Hayashi, JN Mellor Club
text: Karine Arabian, Franck Blais
translation: Tsugumi Kozuma
edit: Eri Machida

清々しい朝なので、哲学の道を通ってヴィラまで二人で向かうことにする。まずは浄土寺にあるフレスコに立ち寄ってコーヒーと食パンを買い、電動自転車のペダルをこぎ、美しく詩情溢れるこの道を進む。観光客の姿はあまり見えないが、それで良い。独り占めできるから。木々たちが、忍び寄る秋の訪れを知らせてくれる。すでに黄葉している葉や、徐々に赤く染まる葉。紅葉の季節が待ち遠しく思う。少し進むと、列をなす制服姿の小学生たちがいて、私たちの通る隙間もないほどだ。でも本禅寺を見ると、そんなことも一瞬にして忘れてしまう。アーチ型の車止めにのった金属製の小鳥を前に、またうっとりと立ち止まる。

アーチ型の車止めにのった金属製の小鳥

この参道を通る度に心によぎる、「世界一美しいこの道を生涯忘れることはないだろう」と。そこから、千と千尋の神隠しに出てくるようなレンガ造りのトンネルを抜けて、幻想から目が覚める。ここから九条山への中腹まで自転車で挑むのである。その先にあるのは、私たちにとっての文化とクリエーションの寺院がある場所、ヴィラ九条山だ。長くはないが、険しい道を進むため、汗をかくのは必須である。自転車を停めたら、ようやくエレベーターに乗り込める。でもその前にもう一度、ヴィラ入口にある過去30年のレジデントの名前が記された垂れ幕に視線を向ける。夢じゃない、と自分たちに言い聞かせる。自分たちもこの最も権威あるレジデンスの一員なんだ。数か月もすれば、私たちの名前もそこに刻まれるのである。スタジオに向かいながら、この静寂さと、クリエーションに適した寺社のような雰囲気に身を置けることに胸が躍る。

ヴィラ九条山
ヴィラ九条山

何よりもまず、信仰と日課とは同じことである。私たちの日課は、コーヒーを淹れてヴィラのテラスで味わうことだ。なんとまあこのテラスの美しいこと! 毎朝、ここから見える京都の街並みに心を奪われてしまう。私たちはなんて幸せなんだろう。また今日という素晴らしい一日の始まりだ。

ヴィラ九条山

プロフィール

JN.メロール・クラブ

JN.メロール・クラブ

JN.メロール・クラブというユニット名で、カリン・アラビアンとフランク・ブレーのクリエーター2人組は様々な職人技を取り混ぜ、造形芸術的な基準を取り入れることで、デザインの境界線上で、モードとアートが交差する地点で、オブジェを創作しています。2人組の特徴は、簡素かつエレガントで控え目なスタイル、それは素材の官能性を明らかにする特異なディテールを通して、感覚されるものや触感に働きかけます。

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インフォメーション

ヴィラ九条山

ヴィラ九条山

フランスのヨーロッパ・外務省の文化機関で、アンスティチュ・フランセの支部の一つとして活動し、主要メセナのベタンクールシュエーラー財団とアンスティチュ・フランセパリ本部の支援を受けて運営している。アーティスト・イン・レジデンス施設として、1992年以来、400名以上の芸術家や職人を迎えており、日仏間の現代創作と芸術交流の先駆けとなる場所。毎月第一木曜日に一般公開を行っている。

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