カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.21
紹介書籍『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』
2024年2月15日
text: Densuke Onodera
photo: Yuki Sonoyama
edit: Yu Kokubu
ヒューマニティ、つまり人間らしさが武器になる
ライブハウスで仲間と音楽を奏でる。クラブで好きな音楽に合わせて踊る。好きな劇団の公演を観に行って感動する。美術館に展示されていたアート作品に心が震える。
音楽、演劇、芸術といった文化活動を愛好にする者にとって、それらを楽しむ時間は心を豊かにし、日々に彩りを与えてくれる。暮らしに欠かせないものだ。それはここ日本に暮らす私たちだけではなく、国籍や年齢を問わず世界共通だと思う。音楽や芸術こそが、人間を人間たらしめ、その国や地域の文化を固有なものにしてきた。
一方で、そういった文化活動が趣味や娯楽という枠を超えて「抵抗」という意味合いを帯び、文化活動の拠点が狙って空爆される場所がある。
パレスチナのガザだ。
イスラエルによって占領されるガザの人々にとって、人間らしさを維持するための文化活動は「抵抗」となり、その活動拠点はイスラエル軍による破壊の対象となってきた。
2023年10月以降にテレビやネット等の情報に少しでも触れていれば、いまパレスチナのガザがイスラエルによって侵攻されていることを多くの人が認識しているだろう。しかし、なぜガザがこのような状況になっているのか、どのようなことがガザで起きてきたのか、その歴史も踏まえて現実をちゃんと理解している人は少数派だと思う。
私が憧れてきたパンクスの信条の一つは「NO WAR」だ。多くのパンクバンドが反戦を掲げ、国家や為政者による暴力を否定してきた。イスラエルによるガザへの侵攻に対し、パンクスなら当然NO WARのスタンスだ。しかし、歴史や背景を知らぬまま「なんでいきなり戦争が起きたんだ?」とか思いながら「NO WAR!」と叫ぶのは不甲斐ない。
そんな私のような不甲斐ないパンクスには『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』を差し出したい。
本書はイスラエルによるガザへの未曾有のジェノサイド攻撃が開始されて間もない2023年10月下旬に早稲田大学と京都大学で行われた岡真理による緊急講義の内容を編集し、2023年12月に緊急出版されたものだ。
本書を読むことで、いま起きてるジェノサイドの背景にある歴史を学び、現在を知ることができる。それはガザの人々と連帯し、共にクソみたいな世界を変えるための第一歩となる。逆にもし、酷い現状を前に無力感を覚えて、諦めて、知識や関心を放棄しているのなら、それは暴力に加担することに繋がる。
著者の岡真理は、前著『ガザに地下鉄が走る日』においてこう綴っていた。
「無知がホロコーストというジェノサイドを可能にしたのだとしたら、繰り返されるガザの虐殺を可能にしているのは、私たちの無関心だとも言える」(P.248)
日本で暮らす私たちは、遠くのガザに無関心でいられる。あまりにも酷い現状も、関心を向けなければ知らずにいられる。知らないままでいると、楽だ。知らないままでいれば、イスラエルを支援するグローバルチェーンでコーヒーを飲んだり、ハンバーガーを食べたり、普通に楽しんだりできる。普通に日常生活を送れる。世界が無関心なら、イスラエルは侵攻を続けられる。
関心を向け、現実を知ると、他人事ではいられなくなる。他人事ではいられないとはつまり、ガザの人々にヒューマニティを見いだすことだ。それはイスラエルの為政者が「ヒューマンモンスター」「ヒューマンアニマル」という言葉でパレスチナ人を非人間化することの対局に位置する、とても人間的な行為だ。
著者は本書においてこう言う。
「私たちは闘っています。何人の人間性も否定されることのない世界のために。(中略)ヒューマニティこそが、私たちの武器です。人間の側に、踏みとどまりましょう。」(P.147)
ヒューマニティ、つまり人間らしさが武器になる。誰もが持っているはずのそれを手放さないように。自分にできることを考え、行動し、また本書を読み返しては考えることを続けたいと思った。
紹介書籍
『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』
著:岡真理
出版社:大和書房
発行年月:2023年12月
プロフィール
小野寺伝助
関連記事
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.20
紹介書籍『東京ヒゴロ1~3巻』
2023年12月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.19
紹介書籍『リスペクト ─R・E・S・P・E・C・T』
2023年10月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.18
紹介書籍『おれに聞くの? 異端文学者による人生相談』
2023年8月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.17
紹介書籍『目的への抵抗』
2023年6月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.16
紹介書籍『本は読めないものだから心配するな』
2023年4月26日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.15
紹介書籍『死んでたまるか 団鬼六自伝エッセイ』
2023年3月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.14
紹介書籍『人間の土地へ』
2023年2月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.13
紹介書籍『ペルセポリスI イランの少女マルジ』『ペルセポリスⅡ マルジ、故郷に帰る』
2023年1月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.12
紹介書籍『サード・キッチン』
2022年12月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.11
紹介書籍『出セイカツ記 衣食住という不安からの逃避行』
2022年11月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.10
紹介書籍 漫画『ひらやすみ』
2022年10月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.9
紹介書籍 『はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密』
2022年9月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.8
紹介書籍 『お江戸暮らし 杉浦日向子エッセンス』
2022年8月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.7
紹介書籍 『気流の鳴る音 交響するコミューン』
2022年7月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.6
紹介書籍 『現代思想入門』
2022年6月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.5
紹介書籍 『ビリー・リンの永遠の一日』
2022年5月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.4
紹介書籍 『牛乳配達DIARY』
2022年4月15日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.3
紹介書籍『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』
2022年4月2日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.2
紹介書籍 『人新世の「資本論」』
2022年3月24日
カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.1
紹介書籍 『うしろめたさの人類学』
2022年3月16日
ピックアップ
PROMOTION
人生を生き抜くヒントがある。北村一輝が選ぶ、”映画のおまかせ”。
TVer
2024年11月11日
PROMOTION
メキシコのアボカドは僕らのアミーゴ!
2024年12月2日
PROMOTION
〈バーバリー〉のアウターに息づく、クラシカルな気品と軽やかさ。
BURBERRY
2024年11月12日
PROMOTION
うん。確かにこれは着やすい〈TATRAS〉だ。
TATRAS
2024年11月12日
PROMOTION
〈ティンバーランド〉の新作ブーツで、エスプレッソな冬のはじまり。
Timberland
2024年11月8日
PROMOTION
「Meta Connect 2024」で、Meta Quest 3Sを体験してきた!
2024年11月22日
PROMOTION
〈ハミルトン〉と映画のもっと深い話。
HAMILTON
2024年11月15日
PROMOTION
〈ハミルトン〉はハリウッド映画を支える”縁の下の力持ち”!?
第13回「ハミルトン ビハインド・ザ・カメラ・アワード」が開催
2024年12月5日
PROMOTION
〈adidas Originals〉とシティボーイの肖像。#9
高橋 元(26)_ビートメイカー&ラッパー
2024年11月30日
PROMOTION
タフさを兼ね備え、現代に蘇る〈ティソ〉の名品。
TISSOT
2024年12月6日
PROMOTION
この冬は〈BTMK〉で、殻を破るブラックコーデ。
BTMK
2024年11月26日
PROMOTION
ホリデーシーズンを「大人レゴ」で組み立てよう。
レゴジャパン
2024年11月22日
PROMOTION
〈バレンシアガ〉と〈アンダーアーマー〉、増幅するイマジネーション。
BALENCIAGA
2024年11月12日