ライフスタイル

【#1】今日もとりとめのないことを

執筆: 鈴木杏

2024年1月11日

鈴木杏


photo: Seiji Kondo(portrait)
illustration & text: Anne Suzuki
edit: Yukako Kazuno

先日、霊視できる方にみてもらった。どうやら私は自分の魂が決めた通りに人生を歩めているとのことでほっとした。これはやったほうがいい、ということがあるか聞いてみたら「ぼーーーーーっとすること」という言葉をもらった。

ぼーっとすること、をする。これがたしかに、なかなかむずかしい。気を抜くと、考えごとをしている。つまり気を抜くと、気が抜けてない。しかもその考えごとのほとんどが、もちろんだけれど大したことではなくて、とりとめもない、発酵しているときに生まれる泡のようなもの。出ては消え、出てははじけてまた空と化す。

愛犬と散歩している時も、半身浴している時も、絵を描いている時も、車を運転している時も、私の脳は左と右を行ったり来たりしながら、発酵している。ぷつぷつ、ふわふわ。このとりとめもないことの豊かさがある、気も、する。とりとめのない、形をなさない、ただの流れの、確かにならないこと。そんなグラデーションはそこここにあって、もしかしたら世界のほとんどはその、確かではないもので、できているのかもしれない。目に見えることは氷山の一角で……と、ほら、こうやって私の脳はどんどん発酵を進めていく。

プロフィール

鈴木杏

すずき・あん | 女優。1987年東京都生まれ。1996年にTVドラマでデビュー後、多くのドラマ、映画で活躍。2003年『奇跡の人』で初舞台を踏む。2021年、舞台『殺意 ストリップショウ』『真夏の夜の夢』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、読売演劇大賞 大賞・最優秀女優賞、紀伊國屋演劇賞個人賞に輝く。近年は個展などアーティスト活動も行う。KERA CROSS第五弾『骨と軽蔑』が、2月23日より日比谷・シアタークリエにて上演予定。

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