ライフスタイル
ペンと文字は男の武器。
2024年2月18日
HOW TO BE A MAN
photo: Koh Akazawa
illustration: Masaki Takahashi
text: Tamio Ogasawara
cooperation: Koji Toyoda
2015年12月 824号初出
大人への道中、時に迷うことがあっても、慌てず騒がず諦めず。自分を見失うことなく着実に歩を進めるべく、携えてほしい一冊がある。それは、昭和を代表する時代小説家、池波正太郎が残した『男の作法』。身だしなみ、食、女性、家……。1981年、58歳の池波センセイが自身の来し方より導き出した、微に入り細を穿つ“大人の男のあり方”は今もなお、僕らの心に響く。
『男の作法』より
万年筆とかボールペンとか、サインペン、そういうものは若い人でも高級なものを持ったほうが、そりゃあ立派に見えるね。万年筆はいくら高級なものを持っていてもいい。便箋とか、封筒とか、こういうものも自分用にあつらえるということはいいと思う。何も物書きでなくてもね。こういうものもやっぱり男の武器なんだから。
マイクさんのノートと手紙がお手本だ。
長い軸に、すぐダメになるペン先を付け替えては、数文字書くごとにインク壷につっこみつっこみしていた先人たちが、インクを入れれば長い時間書けて、キャップをはめればインクが乾かないというこの便利なものを手にしたときの驚きと喜びが、ずいぶんと大げさに、万年書ける“万年筆”という名前を付けさせたのだろう。「高い時計をしてるより、高い万年筆を持っているほうが、そりゃキリッとしますよ」。いかにも人の目につきやすい腕時計は、身の丈に合ったものを控えめに、心を込めて書く手紙や文字には、ありったけの誠意とお金をというのが池波流。いまでいえば、カードのサイン、ホテルの宿泊記帳、引っ越しの際の契約書とか、少ない場面ではあるけれども、ここぞというタイミングでスラスラ書ける書き慣れたペンを懐から出せるのは大人だ。そんなペンを使って書く“紙”にも一手間加える。便箋や封筒以外にも、センセイは「原稿用紙の色を変えたり、マス目をちょっと変えたり」。女が主人公のときは赤い線を、『真田太平記』のときは灰色のものを使っていたり。
当代で、ペンと紙を語らせたら三晩は話が尽きないんじゃないかというのが、〈ポスタルコ〉のマイク・エーブルソンさん。話していても、気になるワードはすぐにメモ。嬉しいことがあったら手紙を書く。「ボクは使うペンをくじ引きのように選ぶのでいろんなものを使います。なぜかというと、クリックの音が気持ちいいペンがあったり、きなこ棒のようなかわいいペンがあったり、どれも気に入っているから同じものを使うのがもったいなくて(笑)。何より、ペンと紙の関係でもあるんだけど、インクの出方、力加減で線の太さが変わったり、滑りの速さに違いがあったり、それが紙の厚さ、サイズによっても異なると、頭の中に浮かぶアイデアが全然違ってくるし、書く内容も変わってくる。考えを補助するための道具だね。たまに手紙を書くときに使う紙は、A5サイズがベスト。それ以上は頭に浮かんだメッセージ以上のことを無理に捻り出している気がして。手紙を大げさに書いてしまうと、相手も気軽に返しづらくなるでしょう。たとえ、スペルミスがあっても、書いていること自体がメッセージ。丁寧に書けば字が下手でも、ボールペンでも鉛筆でもよくて、同じ言葉でも、書いてある内容もそうだけど、その“伝え方”自体がメッセージにもなるってことに気づくことが大切」。使う紙やその手触り、選んだペンや書いた文字の太さ、色もすべて、伝えたい“言葉”となる。ここまで深く考えたことなかったけど、“書く”前にとことん準備することがあるのだ。
プロフィール
マイク・エーブルソン
〈ポスタルコ〉デザイナー。1974年、カリフォルニア生まれ。 〈ポスタルコ〉では、まるで革のような性質の和紙、「ファーマーズ・フェルト」を使った小物を製作中。贈り物にもぴったり。
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