ファッション

スーツを体に馴染ませ、軽快に着る。

2024年2月18日

HOW TO BE A MAN


photo: Kazuharu Igarashi
text: Ken Miyamoto
edit: Tamio Ogasawara
2015年12月 824号初出

大人への道中、時に迷うことがあっても、慌てず騒がず諦めず。自分を見失うことなく着実に歩を進めるべく、携えてほしい一冊がある。それは、昭和を代表する時代小説家、池波正太郎が残した『男の作法』。身だしなみ、食、女性、家……。1981年、58歳の池波センセイが自身の来し方より導き出した、微に入り細を穿つ“大人の男のあり方”は今もなお、僕らの心に響く。

ソリマチ アキラ
ソリマチ アキラ|イラストレーター。1966年、東京都生まれ。男性雑誌を中心にイラストを手掛ける。ビスポークテーラー『バタク』に20年ほど通う。クローゼットの真ん中にはダンベルが。体づくりも大事。

男の作法』より
着慣れない人が和服を着ると相当苦しいだろうと思う。本当は躰は楽なんだよ、和服のほうが。だけど、それには姿勢を正しくしていないといけない。なぜかというと、姿勢を正しくしていないと襟もとがくずれるんだ。そうなると本人も気持ち悪いし、見た目もよくない。

ソリマチさんのように颯爽とスーツを着よう。

 街中で、スーツを着て颯爽と歩く男性を見ると、やっぱり大人を感じる。その姿に憧れ、たまに頑張ってスーツを着てみると、池波センセイが語るところの「着慣れない人が和服を着ると相当苦しいだろうと思う」状態になってしまう。そろそろ、スーツが板についた一人前の大人になりたい!

 そう、イラストレーターのソリマチアキラさんはいつだって体に馴染んだスーツを軽快に着こなしている。ぜひ、その秘訣を教えてほしい。「10 年くらい同じビスポークで作り、ようやく自分の体の形がわかってきて、やっと体に合うスーツがわかってきました。でも、ただスーツを着るだけではなく、心持ちや所作が美しくないとスーツ姿は格好よくならないと思うんです。そのことは常に心に留めています」。なるほど、着る側の姿勢も大いに問われるということか。「大切なことをもうひとつ。家を出る前に、髪型やネクタイをセットしたら、外では絶対に触ったり、気にしないようにしています。どんなにいいスーツを着ていても、外面ばかり気にするのはみっともないですからね」。今回、スーツの細やかな着こなしの技を教えてもらったけど、この言葉にこそ、大人になるための極意が集約されているのかもしれない。

ソリマチさん、最初の一着は何色?

ソリマチアキラ
「長く着られるので、まずはグレーのウールスーツを作るといいと思います。私はどこに行っても違和感がないよう、行く場所の風景を考えてスーツを選んでいます。東京だと自然とグレーが多くなるので、実はネイビーは持っていないんです。職業上、キチッとしすぎる必要もないので、フランネルをよく着ます。スーツを作ると、体の形がわかって、“どういう服が似合うか”を知る近道になるので、最初こそ、テーラーで作るといいかもしれません」

靴の使い分け方、買うタイミングは?

ソリマチアキラ
「基本は黒のストレートチップです。〈アレン・エドモンズ〉のストレートチップ、〈チャーチ〉のセミブローグは、仕事やパーティのとき、〈ジョージクレバリー〉のプレーントゥ、〈クロケット&ジョーンズ〉のチャッカブーツは、食事や近所の散歩にでかけるときに履く。スーツを作ったタイミングで靴も買い足しています」

どのポケットに、何を入れるべきですか?

ソリマチアキラ
「スーツのときは基本、手ぶらだから、ポケットの使い方を決めておくといいですね。長財布はジャケットの左胸ポケットに、その下のポケットに携帯電話を。反対側の胸ポケットには名刺入れ、ハンカチは外ポケットですね。」
ソリマチアキラ
「鍵は音が鳴らないよう、パンツのポケットの中の専用ポケットへ」

ジェントルマンらしい、アクセサリーは?

ソリマチアキラ
「普段はつけないですが、社交の場にでかけるときに、少し華やかになるのでカフスやタイクリップをつけます。北欧、イギリス、アメリカのアンティークのものを揃えています。丸いカフスは犬の顔。どの時代も紳士は犬が好きなのかも」

スーツによって腕時計は使い分ける?

ソリマチアキラ
「主張したい気持ちを抑え、あくまで“普通”に見えるように。フェイスの形とベルトを考えて選ぶ。茶ベルトの〈カルティエ〉はコーデュロイスーツ、黒ベルトのUKミリタリーウォッチと〈ジャガールクルト〉は、フランネルスーツに」

チーフはどう使う? ハンカチは名入れする?

ソリマチアキラ
「フランネルスーツのときは、チーフを長方形に畳んで、ポケットに入れるシンプルなTVホールド。コーデュロイスーツのときは、丸めて入れるパフドスタイルが多いです。ハンカチは無地の白か水色。ネームを入れると、より愛着が湧く。」

どんなカバンが紳士に似合うのか?

ソリマチアキラ
「スーツのときは手ぶらがいいけど、必要な場合は極力シンプルなカバンを持つ。これはイギリスの〈シンプソン〉のレザーバッグ。一見、ドキュメントケースのようだけど、持ち手が収納してあるんです」

シャツの基本色は? 下に何か着るべきか?

ソリマチアキラ
「まず白いシャツがあれば間違いない。基本は着ませんが、寒いときなど必要なときは透けないようにノースリーブのVネックの下着を身につけます。スーツの色に合わせて、ブルーやチェックを着ることも。白いシャツは『バタク』でビスポークしたもので、ストライプシャツは〈ルーイン〉、ブルーのチェックシャツは〈ステファン・ブラザーズ〉です」

黒の次は茶色の靴、どうやって合わせる?

ソリマチアキラ
「イギリスでは、茶色い靴は田舎で履くもの。でも、〈ジェイエムウェストン〉のブーツを手に入れて、茶色の靴を楽しみたくなりました。コーデュロイのスーツにもよく合わせます。他にも〈ジェイエムウェストン〉のローファー、〈ジョージクレバリー〉のチャッカブーツ、〈ロイド・フットウェア〉のダービーを愛用中です」

足の肌を見せない、そのための工夫は?

ソリマチアキラ
「ズボンの裾から肌をのぞかせるのはマナー違反。わかっていても、ついつい気を抜きがち。ソックスガーターがあれば完璧です。ロングホーズソックスをはくときもあります。大人のスーツは、こういった細部こそが大事だと思います」

2着目に手に入れるべきスーツは?

ソリマチアキラ
「コーデュロイがオススメですね。ちなみに、こちらはパリのカフェでコーヒーを飲む場面をイメージして作りました。素材的に、スーツを“着倒す”感覚が楽しめるし、カジュアルでも着られるのがいい。パンツの裾も大切。冬用のスーツのときは、シューズにハーフクッションができるよう、計算しています」

スーツのアイデアソースは?

ソリマチアキラ
「穂積和夫さんの本、昔の写真集や映画を見ていると、どんなスーツが欲しいかイメージが明確になります。スーツは1年に1着作る。今年が冬物なら次の年は夏物にして、ワードローブのバランスを取っています」

スーツに合わせてコートも替えるべき? 

ソリマチアキラ
「替えたほうが、スーツ姿が映えると思います。フランネルスーツのときは『バタク』で作ったビスポークのカバートコート。もともとはハンティングや乗馬のときに着るコートでカバートクロスという丈夫な生地で仕立てています。コーデュロイスーツの上には、’70年代の〈アクアスキュータム〉のキングスゲートというコートがしっくりくるんです」

スーツのときにはベルトレスがいい? 

ソリマチアキラ
「ずっとノーベルトだったのですが、体型の変化にも対応しやすいし、年齢的に似合うようになってきたので、最近はブレイシーズをつけています。ジャケットは脱がないのは基本ですが、作業中は結構脱ぐので、色調の合ったものを」

ネクタイの色と柄のバリエーションは? 

ソリマチアキラ
「ネクタイは、ソリッド、ニット、プリント、レップをベースに揃えます。特にニットは便利ですよ。レジメンタルは、それぞれに“出身校”だったり、“所属部隊”などしっかり意味があって、勘違いされる場合もあるので避けるようにしています」

大人の香水はどうあるべき? 

ソリマチアキラ
池波正太郎の『青春忘れもの』というエッセイで、彼が海軍時代、外出のときに香水をつけなかったことで、上官に殴りとばされて、そのあとその上官から2瓶もらったというくだりがあって。その話が好きなのもあって、香水はつけています。〈ペンハリガン〉の『オーパス』とヴィンテージの『ロード』を愛用。