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【#3】ネコ研究者のポートランド – SF旅行記

執筆: 服部円

2023年8月24日

photo & text: Madoka Hattori
edit: Yukako Kazuno

学会での発表を終え、ポートランドからカリフォルニア州サンフランシスコにやってきました。街の雰囲気が全く異なります。

さて、ネコの研究をしていると本や記事を書かせていただくことも多いのですが、なにぶん研究を正しくわかりやすく伝えることに苦労します。エンターテイメントの中で少しでも本物の科学に触れることができればと考えます。

サンフランシスコには動物園や博物館もありますが、体験型の科学博物館の老舗といえば『Exploratorium』(エクスプロラトリウム)』です。観光地としても有名ですが日本語で書かれた記事が少ないので2回に渡り紹介したいと思います。

サンフランシスコの街中から海沿いに位置する「Exploratorium(エクスプロラトリウム)」は、1969年に物理学者のフランク・オッペンハイマーが設立した世界初の体験型科学博物館です。2013年に現在の湾岸倉庫に移設し、展示作品は600点以上あり、1日ですべてを回り切るのは難しいかもしれません。

大きくは全部で6つのエリアで構成されてされています。人が関わることで生まれる現象や光と音を使った装置、細胞や植物など生態系にテーマを当てた展示など、テーマごとに体験できるアトラクションがあります。一部ですが、実際に体験してみて面白かった展示を紹介していきます。

ひとつめのエリアは人間の思考や感情、社会的行動にまつわる実験ができる「人間の現象(Human Phenomena)」。自分自身の姿がゆがむ鏡のオブジェや錯視の装置、感覚が研ぎ澄まされる触覚ドームなどがありました。

2つめのエリアは「つくってみる(Tinkering)」がテーマ。実際に手を動かすことで、創造性を探求することができます。展示物の制作工房にはさまざまな工具がずらりと並んでおり、ここでワークショップなども開催されるとか。気になったのは水を使ったクラウンを撮影する装置。うまいタイミングでシャッタースピードをコントロールしないと撮れず、何度もチャレンジしました。 

3つめのエリアは、光や音を使った現象を体験できる「視覚&聴覚(Seeing & Listening)」。七色に光るプリズムや太陽光を使って絵を描く装置など、手先だけでなく全身を使って光の現象を再現することができます。ちなみにここはすごくSNS映えします。

4つめのエリアは「リビングシステム(Living Systems)」。細胞やDNAなどをテーマに生物と生態系について知ることができます。「CELL TO SELF」(いちいちタイトルが洒落てますね)では、細胞を模したパズルなど簡単なものから、電子顕微鏡を使ったDNAの解説や実験室も公開されていました。

5つめの「アウトドア展示(Outdoor Exhibits)」は、風や海辺を使った自然現象を楽しめる展示です。時間によっては霧の発生を体験できたりもするとか。残念ながらいくつかの展示がメンテナンス中でしたが、海沿いの空間を生かした開放感のある気持ちのよいエリアでした。

最後は、ベイエリアの歴史や地形を学べる「景色を楽しむ(Observing Landscapes)」。サンフランシスコの古い地図や海辺で収集した資料などが展示されています。展望台にも出ることができ、港を行き交う船を見ることができました。

最近の科学館によくあるデジタルを使った体験装置もあるかと思ったのですが、ほとんどがアナログの装置で驚きました。とはいえ、アナログだからといって古びた感覚はなく、人間が感じることのできる普遍的な現象は時代を経ても変わらないんですよね。

もちろんキャプションがあって深く知りたいことはあるのですが、まずやってみて、現象がおこり、驚き、考える、という思考のプロセスをうまく引き出している印象を持ちました。

長くなりましたが、次回は館内でおこなわれていたカルティエ現代美術財団による企画展やミュージアムショップを紹介します。

インフォメーション

Exploratorium
◯Pier 15 (Embarcadero at Green Street) San Francisco, CA 94111 月休 入場料大人39.95ドル 木曜限定で18時から入れるナイトチケットあり

プロフィール

服部円

はっとり・まどか | 編集者、大学院生。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業後、ファッション誌の編集者として働く。現在、京都大学野生動物研究センターの博士後期課程に在籍し、ネコとヒトとの関係について研究している。2023年5月にカルチャーとサイエンスを繋ぐWEBメディア『文化と生物学』をローンチした。

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