カルチャー

みんなのレコード買い付け物語。/『KIKI RECORD』店主・馬場正道

2023年6月4日

illustration: Minoru Tanibata
text: Masamichi Baba
2023年6月 914号初出

2人の老婆が営む中国雑貨屋。
2階にインドネシアのお宝が!
値付けをごまかそうとしたら……。

 インドネシアは東南アジアで最初に西洋の文化が混ざり合った国で、音楽もラテンやジャズの要素があって洗練されてるんです。僕はもともと日本の1950年代の踊れる曲が好きで、海外にも似たような音楽があるんじゃないかと探しているうちに、インドネシアの古いレコードにそれと通じる良さがあることに気がついたんです。

 初めての買い付けに行ったのは17年前。ユーミンも歌にした「スラバヤ通り」という骨董品店通りに何軒かあったレコード屋で、何もわからないままジャケだけで判断して大量に買いました。僕の好みな音楽は1割くらいしかなかった。でも、その1割がすごくよかった。次は3か月かけて、レコード屋さんの端から端まで聴かせてもらいました。試聴できない店でも、目当てのレコードを別の店に持っていって聴かせてもらう方法があるとそのとき知りました。

 インドネシア語は現地で親しくなった友人たちから覚えました。英語圏のディーラーと一緒に買ってたら、「こいつには高く売るけど、お前言うなよ」って僕にだけインドネシア語で言われました(笑)。

 6年くらい前の話なんですけど、夜中に友達に起こされて、急に「夜中の飛行機でスマランに行くぞ」って言われたんです。さびれた通りの奥に、真っ赤な服を着た白髪のおばあちゃん2人でやってる中国系の雑貨屋さんがありました。その店の2階が全部レコードで、いくつか質問を受けてOKをもらえないとダメ。彼女たちの父親が元レコード屋だったそうで、古いレコードのデッドストックが山ほどあった。レコードは500円、それより古いSP盤は300円。僕は選んだSP盤の中に、ジャケなしの10インチレコードが同じサイズだからこっそり交ぜていたんです。そしたら、会計でおばあちゃんがその10インチを見つけて、いきなりバーンって床に叩きつけた! 「ほら、割れないでしょ。これはSP盤じゃなくてレコード。だから500円ね」って。あれは衝撃的でしたね。

プロフィール

馬場正道

ばば・まさみち|学生時代からアジアで買い付けを行い、2014年4月、中古レコード店『KIKI RECORD』をオープン。知られざるアジアの音楽をプレイするDJとしても各地に出没。買い付けをそろそろ再開したい。次に行きたいのはギリシャ。

◯東京都小平市たかの台44-1 ☎042·313·2245 11:00〜20:00 月・木休