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いい仕事ってなんだろう?/高比良くるま

褒められたのはなぜかを分析する。

2023年4月22日

いい仕事ってなんだろう?


photo: Naoto Date
text: Neo Iida
2023年5月 913号初出

「面白さを言語化できたら、
世の中のお笑いレベルの総量が上がる気がする」

 昨年の『M-1グランプリ』の敗者復活戦で見た、令和ロマンの漫才「ドラえもん」は熱かった。MOROHAが歌う主題歌とか、大山のぶ代から水田わさびに声が変わるとか、「わかる!」が攻めてくる感じ。決勝進出ならずも、記憶に残る4分間だった。そんな令和ロマンのYouTubeチャンネルを見ていると、「1回戦対策講座」や「敗者復活戦の攻略法を考えよう」といった考察動画が目立つ。もちろんエンタメではあるけれど、根底にはボケの高比良くるまさんの分析力が生きている。

「気温とか音響とか、その時々の環境を考えるのが好きなんです。例えば敗者復活戦の会場は野外の六本木ヒルズアリーナで、東京中の風が流れ込む。日が沈むとめちゃくちゃ寒いんです。寒いとお客さんは笑いづらくなるので、出順が遅いときついんですよ。そうなったらどうしようかなと考えて」

 12月の吹きさらしは確かにきつい。いくらいいネタができても、お客さんが万全の状態じゃないと笑いは起きないもんなあ。

「あと客席のガンマイクが演者を追いかけてくるのが面白いなと思ったんです。ガンマイクが左右に動くと僕が無茶苦茶してるふうに見えるから、ネタにその笑いが乗っかるんですよ。『M-1』ではそういうボーナスポイントも取りに行ってます。カラオケ採点でしゃくりとかビブラートで点数ひたすら上げるみたいな。実力とかフィジカルな質とか声量とか演技力みたいな面では、俺らは準決勝に行ってる人たちの中でも下のほうだと思うんで、コツコツ足していく」

 いやいやそんなこと……と素人は口を挟みたくなるけれど、これは芸人の頂上決戦の話。きっと我々には見えないパンチやキックが山ほどあるし、くるまさんによる自己分析ではそういうことになるらしい。その思考はメモしておくんだろうか。

「書く脳の人じゃないんですよ。発話の脳みその人なので、人に聞かれて喋ったときに思いつくし、筋道が立つんです。文字で書こうとすると矛盾しちゃうというか」

最近買い替えたiPad miniで「おもろい」を考察。「モグライダーさんの『さそり座の女』のネタも、『ただの歌詞じゃん』が事実で、『誰かが聞いてきた』が真実。完全なファンタジーより、それぐらいの塩梅がいま面白いんだろうなって」 

 ただ、iPad miniには考察の跡があった。

「普段は書かないんですけど、これは気になったのでまとめました。先輩が俺らのABCお笑いグランプリのネタを見て、『おもろかった』って言ってくれたらしいんです。“AKB‌48の歌を秋元康先生が歌ってたら”っていうネタなんですけど、『お客さんに想像させる感じが落語みたいだった』って。それを聞いて、じゃあ何をもっておもろかったんだろうと考えたんです。あれって分解すると『桃太郎がおっさんだったら』みたいな、何かと何かをかけあわせるネタと一緒なんです。俺たちの独自性としては、まず『AKB‌48の歌を秋元先生が書いている』っていう事実があるんですよ。それに対して、『秋元先生というおじさんが若い女の子の歌を書いてる』っていう真実がある。真実のほうが事実よりちょっとおもろいんです。基本的にみんな事実で生きているから、真実を見せないように事実を提示して、後から真実が追い越してくるのがおもろいのかなって」

 なるほど、「おもろい」を感想で終わらせず、その角度で掘っていくんだ。

「ニュアンスをメソッド化したいんです。お笑いって感覚的すぎるので、なんで面白いのか言語化できたら人に伝えられるし、世の中のお笑いレベルの総量が上がる気がして。友達を川に落とすようないじめもなくなるんじゃないかと思う。それに、今の日本で最先端と思える分野ってあまりないけど、お笑いは追求する価値があると思うんです。学問とされないものなので、研究してる感じですね。新薬を作るみたいな。メソッド化したものを、笑いのズレが起きている現場に注入して、お笑い全体をよくしたいし貢献したい。そう思って無理やりやってるのが僕の活動です」

「あんまり覚えられないので、記憶を外部に置いている感じです。見れば思い出すから」とくるまさん。メモは自分なりに組み立てたメソッドのひとつだ。「反省点は出番の合間とかに相方とバーッと喋る。過程はメモせずに、ネタの大本を書き換えちゃいます」

高比良くるまの仕事内容


所属する「神保町よしもと漫才劇場」の企画ライブに参加する他、大阪や京都、兵庫など全国各地にある吉本興業の劇場に出演している。即興漫才ライブ『令和ロマンのR2D2』では、来場するお客さんからのテーマでネタを作る。また、先輩や同期とのライブにも出演する。合間にテレビやラジオ、Podcastなどの収録や、自分たちで企画するYouTubeの制作を行う。またM-1戦士として毎年夏には『M-1グランプリ』にエントリー。優勝を目指す。

2018年の初舞台以降、いつどこで何のネタをやったかをすべて記録。「神保町」と検索すれば直近でスポーツのネタをやったとわかるので、内容を変更することも。ネタの台本の他、“小手先”と呼んでいるパーツも入っていて、漫才コントのとき、適宜組み合わせてネタに入れるという。「しょうもない、ちょっとしたボケ。例えば『“借りイチですね”って“貸しイチ”のとき言う言葉だろ。借りるときに言うな』みたいな、誰が言っても冗談とわかることをバーッて入れてある。組み合わせるだけなんで、カロリーの低い漫才の考え方だと思います」
現在、昨年のファイナリストから準決勝進出者までが全国を回る『M-1ツアースペシャル2023』の真っ最中。この日の令和ロマンは1部と3部に出演し、「千と千尋の神隠し」と「パン屋」のネタを披露。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を観て泣く坊、最高。

プロフィール

高比良くるま

高比良くるま

たかひら・くるま|1994年、東京都生まれ。慶應義塾大学のお笑いサークル「お笑い道場O-keis」に入部し、1学年先輩の松井ケムリとお笑いコンビ「魔人無骨」を結成。複数のコンビを組み、魔人無骨以前はコントを軸にしたツッコミ役が多かった。学生お笑いサークル連盟長も務める。2017年にNSC東京校23期生となり、首席で卒業。芸歴1年目でヨシモト∞ホールのファーストクラスメンバーに昇格。改元を機に令和ロマンに改名する。2020年、『NHK新人お笑い大賞』優勝。現在『アッパレやってまーす!火曜日』(MBSラジオ、隔週レギュラーコーナー)、『令和ロマンのご様子』(stand.fm)などに出演中。YouTubeで『official令和ロマン』も配信中。

YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCEz6Z7EgtSi-rPes-SIKJEg