カルチャー

レストランと恋の話。/夢眠ねむ

2022年12月24日

illustration: Satsuki Mishima
2023年1月 909号初出

『オーベルジュ・バースデー・デート』

 デートというと99%、お気に入りの焼肉屋に行く。そのためなかなかレストランデートと洒落込むことがない我々夫婦だが、それでも1年に1回レストランチャンスがやってくる。私の誕生日旅行である。私は誕生日プレゼントとして旅行をもらうことにしている。行き先もホテルも全部私が決める権利があるので、「コース料理が食べられる、素敵なレストラン」があるホテルを選ぶのである。

 私のお気に入りは箱根本箱というブックオーベルジュ。このコラムを書くためにカメラロールを見返してみたが、箱根名物の黒たまごに模したクロケットしか撮っていなかった。コース料理をパシャパシャ撮ってもブロガーやインフルエンサーでもない限りあまり見返すことがないと悟った女のカメラロールである。それに、コース料理はお皿の余白もあるので素人は上手に撮れないし、写真より肉眼で見る方が良いのだ。花火と同じで無理して撮らないこと、これに限る。

 箱根本箱のレストランはローカルガストロノミー、オーガニック&クレンジングがテーマなので美味しい上に体にいい。食べたことのない味の組み合わせがたくさんあるので「なにこれ、美味しい」「なにかはわからないけどめちゃくちゃ美味しいね」「これはなにかな」「これ食べちゃダメなやつじゃない」「飾りの石か!」とこっそり笑い合う。個室があるので、万が一石を齧ってしまっても恥ずかしくないのもいい。木の輪切りの上に盛り付けてくれるブーランジェリーヤマシタのパンが美味しすぎて、つい食べすぎてしまい、後半動けなくなるのもいい(レストランでパンのおかわりを我慢できないのは我々の弱点)。極め付きは“いいレストランだから苦手なものは事前に抜いてもらえるのに大嫌いなグリンピースを伝えることに必死でジビエを伝えそびれた夫”から、メインディッシュのお肉を分けてもらえることである!(パン同様、お行儀がいいことではないのでこっそりと。)恋人と好きな食べ物が同じなのはいいことだが、恋人の苦手な食べ物が自分の好物だった場合、こんなメリットもあるのだ。

 素敵な誕生日を迎えられることに感謝できて、そしてまた歳を重ねることが楽しみになるプレゼント、オーベルジュ。来年はどんなお料理に出会えるだろうか。

プロフィール

夢眠ねむ

ゆめみ・ねむ|『夢眠書店』店主、キャラクタープロデューサー。三重県生まれ。みえの国観光大使。アイドルグループ「でんぱ組.inc」卒業後、予約制書店『夢眠書店』を開業。著書に『ゆめみやげ』『まろやかな狂気』『夢眠軒の料理』などがある。