TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

妻のこと Vol.2 – 戦略妻 –

2021.03.11(Thu)

妻と散歩。
ブラブラと歩く。
昼過ぎに家を出て、日が暮れるまで歩く。

本屋があれば僕が何かを買い、古着屋があれば妻が何かを買う。
荷物が生まれる。
僕はいつもカメラをぶら下げるだけで、あとは手ぶら。
妻はなんらかの鞄を持っている。

何かを買えば、妻の鞄は重くなる。
重くなると、「持て」と言ってくる。
「誰々の旦那さんはなんでも持ってくれるんだって」などと一言添えて、鞄を差し出してくる。
僕は断固抗議する。
「男性に対する不当な扱いである」
しかし妻は言う。
「そういうのいいから早く持て」
ここで僕は妻に仰々しくカメラを向けてこう言う。
「荷物持つと写真撮れなくなっちゃうよ」
これにて僕の勝利が決まる。
妻は写真を撮られたい。上手に撮られたい。上手に写真を撮られるためなら、重い荷物を持とうが構わない。
正直に言って、僕の素人写真は荷物を持っていようがいまいが下手くそなことに変わりない。このことに妻は気づいていない。

バレンタインデーは僕の誕生日。
その2日前、妻が祝ってくれた。
(なぜ2日前だったのかといえば、僕がほとんどいつも家にいて、外出するのが2月12日だけであり、こっそりチョコレートケーキを焼くにはこのタイミングしかなかったからだという。コロナによる在宅ワークの影響がこんな形で現れるとは思わなかった)
妻は誕生日プレゼントを用意してくれていた。
大きなガマ口のショルダーバッグだ。
僕は無類のガマ口愛好家だ。
地方へ行けば必ずお土産屋さんでガマ口を物色する。
最近では渋谷のヒカリエにできたガマ口専門店が大のお気に入りだ。
ひとしきりパチパチと開け閉めして、満足して買わずに帰る。
サイテーの客だ。
そんな僕にとって「大きなガマ口のショルダーバッグ」はこの地上で最も好ましいショルダーバッグなのだ。
それにこのしっとりと分厚い革よ。
信号待ちのたびに撫でまわし、頬擦りしたくてもどかしい。
皆さんにも是非見て欲しい。最高なのだ。

再び妻と散歩。
ブラブラと歩く。
妻が店先で何やら買った。
妻はこちらへ歩み寄る。
おもむろに僕のガマ口をパチンと開けて、散歩の戦利品を中へと滑り込ませた。

嗚呼悲劇。
このガマ口、何を投じられようと、いかに重量が増そうと手放せぬ。信号待ちのたびに撫でまわし、路地裏に入るたびに頬擦りしなければ心がもたない愛おしさだもの。

妻よ。戦略妻よ。
お主の誕生日には首を洗って待っておられよ。

プロフィール

上出遼平

かみで・りょうへい|ディレクター・プロデューサー。1989年、東京都生まれ。テレビ東京に入社後、『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』シリーズを企画し、演出、撮影、編集のすべてを担当。放送では伝えきれなかったことを書き綴った同タイトルの著書も執筆。
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