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【#3】我が引越し記 – 取か?捨か? – その③

2022年10月28日

引越しのために部屋のあらゆるものの取捨選択を迫られてきたが、もはや「取」か「捨」か迷っている時間も無くなってきた(捨てるにしてもゴミを出せる日も過ぎてしまったし)。

とにかく目の前にある物をひたすらダンボール箱にぶっこんでいくしかない。だのに、この段になっても“なるべく箱きっちりに収めたい”という几帳面さが発動し、「この少し空いたスペースに何入れようか、文庫を入れてみようか、いやだめか、縦にすれば入るか、やっぱり無理か、ならばさっきの小物を入れてみるか…」などとトライ&エラーを繰り返すうちに時間がどんどん過ぎていく。そしてそんな最中でもこれまで捨てるに捨てられなかった物たちを見つけて手が止まってしまう。

『松井秀喜のムック本』

松井秀喜

私は巨人ファンでもなければ松井ファンでもないのだが、松井のプロ4年目に出たこのムックを袋に入れて大切に保管している(中身はほぼ読んでいない)。

これを買ったのはおそらく自分が大学受験に失敗し浪人生となった頃だろうか、人生で最もうだつの上がらない時にコンビニでこの松井と目が合い、瞬時に「この人は将来プロ野球史に残る選手になるだろうから、このムックを後々まで大事にとっておいて、引退のタイミングとかに売ったらそこそこの値打ちになるんじゃないだろうか」という打算が働き購入した。100%投資目的の買い物だった。いまから四半世紀ほど前に転売ヤーみたいなことをやっていたのだが、その後の松井の活躍ぶりは言うに及ばず、私の投資家としての目は間違っていなかった。だが結局、松井が引退したタイミングでこのムックを売ることもなく袋に入れたまま大事に保管して今に至る。

ちなみに、そのムックと一緒に出てきた『AERA』(表紙ヤバイ)と911テロ翌日の東京新聞、それと赤塚不二夫追悼を伝える東スポ(見出しヒドイ)、これらももはや貴重な歴史のアーカイブでもあるのでやはり捨てるに忍びない。

『エリマキトカゲのビニール袋』

エリマキトカゲ大流行の時に作られた物だろうか、とにかく絵が良い。「人気絶頂!」の文字もまた良い。Tシャツにしたい。このビニール袋は何かの折に友人からもらったものだが、その友人とはコロナ禍にLINEでの些細なやりとりがきっかけで疎遠になってしまった。友人にとっては「些細な」ことではなかったのかもしれない。「全部コロナのせい」ということにしてまた会えたらいいけど、会えなくてもそこそこ元気にやっていてくれたらいいなと思う。

そんなわけでもう待ったなしの状態なので、感傷に浸っている場合ではない。引越しは感傷を詰め込む作業でもある。いま「感傷」と「緩衝」材で何か上手いことを言おうとしてる自分に気づいて恥ずかしいのでここらでやめます。

次回がおそらく最終回。

プロフィール

死後くん

1977年、愛知県生まれ。イラストレーター、漫画家。本誌POPEYEの巻末漫画『ジョン&ポール』、絵本『ぽんちうた』(ブロンズ新社)、漫画『I My モコちゃん』、NHK総合『おやすみ日本』の「眠いい昔話」コーナー、『失敗図鑑』(大野正人著/文響社)、絵本『ごろうのおみせ』(ごろう作/岩崎書店)ほか、紙媒体を初め、様々な媒体で活躍中。

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