カルチャー

MY STANDARD COMICS/蓮見 翔

2022年11月6日

僕にとっての、漫画のスタンダード。


photo: Jun Nakagawa
text: Neo Iida
2022年11月 907号初出

「コントを書き終えたら、
小説ではなく漫画を読みます」

蓮見 翔

 いつも、コントを書き終わったら、漫画を読むようにしているんです。普段は小説も読みますけど、文字をたくさん書いたあとは漫画に逃げたくなる。こうやってキャラクターを深く描かなきゃいけないんだよなあって思いながら読んでます。ただ、僕のコントは群像劇で、笑いを成立させることに軸を置いているので、一人ひとりのキャラクターを愛してもらおうと思ったことがあまりないというか。漫画は自分視点で読み進めるから主人公がいても不自然じゃないけど、コントは舞台全体を見るものなので、どうしても引きの絵を意識せざるを得ない。そういう構成の違いを感じながら、漫画を読んでいます。

 コントをがっつり書くようになってから読んだのが『水は海に向かって流れる』。主人公の直達が通学のために叔父さんの家に居候するんですが、ルームメイトが数人いて、そのうちの一人が父親の浮気相手の娘だったという話。誇張された人間が一切出てこないのに、ものすごいインパクトでぶん殴ってくる作品です。僕は人がまだ言葉にしてないものとか、絵に描いてないものを最初に描いた作品が好きなんですけど、3巻にグッとくるシーンがあって。ぜひ読んでほしいので経緯は省きますが、直達がファミレスのレジ横にある募金箱にお金を入れて帰る場面。募金って生活の中の何げない行為だけど、そこに至る過程が非常に良くて。すでに直達に感情移入しているし、面白いけど笑う空気でもない。その描きようがない様を完璧に描けている。ちょうどこういうものを書こうと思っていた矢先に読んだんですけど、一切勝ててないなって思いますね。

漫画
『水は海に向かって流れる』 田島列島

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『水は海に向かって流れる』 田島列島
講談社  2018~’20年  全3巻

高校進学を機に、漫画家のおじさんがルームメイトたちと暮らす家に居候することになった直達。女装の占い師、メガネの大学教授、そしてちょっと気になるOLの榊さん。実は榊さんと直達の間にはとある因縁の関係があった。「すべての話がひとつも無理していないし、ラストシーンが良すぎる。映画化もされた前作『子供はわかってあげない』も不倫とか新興宗教がテーマになっていて面白かったです」

漫画
『ひきだしにテラリウム』 九井諒子

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『ひきだしにテラリウム』 九井諒子
イースト・プレス  2013年  全1巻

『ダンジョン飯』の作者がおくる短編集。恋愛からSFまで幅広い世界観を堪能できる。Web文芸誌『マトグロッソ』での連載に、3本の描き下ろし作品を収録。「コメディも社会風刺もあって、絵のタッチが毎話違う。人間の頭の中って本当はぐちゃぐちゃだけど、ショート・ショートなら表現できるんだと気付かされました。しかも最後はオチもあるんです。構造ごと飛び越えたから、自然な伏線で綺麗に終われるという」

プロフィール

蓮見 翔

はすみ・しょう|1997年、東京都生まれ。コントユニット「ダウ90000」主宰。2017年、日本大学芸術学部映画学科映像表現・理論コースの同期らとはりねずみのパジャマを結成。東京学生演劇祭2019で大賞受賞。2020年にダウ90000を立ち上げる。脚本・出演の連続ショートドラマ『今日、ドイツ村は光らない』(全15話)をhuluにて配信中。