新たなスタンダードになりつつある、コーヒーとお酒の掛け合わせ。
2杯目にも、夜の締めにも、日中のブレイクにも。

コーヒーカクテルにはホットだってある。アイリッシュコーヒーは、その名とおりアイルランドのウイスキーがベースだ。「この国のウイスキーにはスモーキーな香りが強いものが多いのですが、なかでもバランスが取れた種類を使用しています」とバーテンダーの城寶弘一さん。豆は、兵庫県苦楽園にある『タオカコーヒー』のブラジルの中煎りを。このようなコーヒーカクテルを提供するようになったのは、コーヒーのサードウェーブがきっかけだそう。スタッフはその震源地のひとつ、ポートランドを巡り、この地のバー『ペペレモコ』に一目惚れ。今はなきこの店へのリスペクトから、店内には随所にオマージュが。国を超えて受け継がれる空間なのだ。


世界100店のバーで今飲まれているカクテルを集計した人気ランキングが毎年発表されている。その順位をグングン上げて、この5年ほどトップテンの常連に名を連ねるのがエスプレッソマティーニだ。ウォッカベースの強い酒だけど、『ナンバー』の一杯は口当たりが軽やか。バリスタ兼バーテンダーの荻原将司さんは「ウォッカをしっかり冷やして、アルコールの刺激をまろやかにしています。また、シェイクではなくブレンダーを使うことで程よく空気が入り、コーヒー豆の香りがしっかり感じられることも飲みやすさの理由のひとつですね」という。夜、これを1杯だけ飲んで帰るという人も多いそう。そんな大人な振る舞いをしてみたくなるお酒だ。


一見、濃厚なオレンジジュースのようだけど、実はカンパリベースの赤色のカクテル、スプモーニをヒントに作られたもの。バーテンダーの吉野優美さんに聞けば、肝は仕込みにあった。「カンパリをヨーグルトに漬け置くんです。これを濾すとヨーグルトが赤い色素を吸着して、透き通り黄色味がかった液体になります」。これにコーヒーを合わせ、さらにオレンジは高速回転ジューサーへ。なんでもこのマシンはNYの老舗カフェバー『ダンテ』にもある代物で、微細な泡が立ち口当たりがよく、香りも立つのだ。最後にグリーンの色合いが映える山椒を。大正時代に流行し、日本のバー文化の「特殊喫茶」をイメージしたこのお店らしい、ハイカラな一杯なのだ。


ジンとトニックを自分で合わせる楽しみ方があるのだから、お酒とコーヒーだって別々に出てきてもいいんじゃないか? そんな飲み方を教えてくれたのはバーテンダーの板橋凜さん。「イタリアのバールには、エスプレッソ片手にアルコールを楽しむスタイルがありますよ。食後のコーヒーブレイクに、食後酒も飲むイメージです。交互にでも、エスプレッソにお酒を入れてもいい。実際、飲み慣れたお客さんにはそういう注文をするかたもいますね」。なかなか自由な飲み方じゃないか。お酒に決まりはないけれど、食後酒らしくグラッパを。ぶどうの搾りかすで造る、この国の特産品だ。スタンディングでちびちびやれば、気分はさながらイタリアの日常。
