ライフスタイル

【#3】3.11

2022年8月27日

 静岡県に戻り、収入もないので起業プランを立てながらとりえず父親の貿易業の仕事を手伝い、毎日波乗りを楽しむレイバックスタイルな生活をし始めて間もなく、父親のスリランカ人の友人が日本でレトルトスリランカカレーの製造を始め、国内向けの代理店を探していると父親の元を訪れた。父親は全く興味がなさそうだったが、隣で聞いていた自分には何か感じるものがあった。当時のメディアで取り寄せグルメが取り上げられるのを見ていて、ネット販売の可能性を考えていた。とは言え、まだ食品をオンラインで購入するのは珍しかった時代だ。ブルーオーシャン市場にチャンスを感じていたが、波乗り原理主義の自分には、ネットもITもパソコンもチンプンカンプン。さらにはリトル廣畑が「オーストラリア移住して波乗り三昧しようぜdude」。常にそうささやいた。

 そんななか、実家でビールを飲んでるときに母親がおもむろに冷凍チマキをテーブルに出してこう言った。「これどこどこのおばあちゃんが作っている有名なチマキなの。ネットのお取り寄せで買ったの」。ネットを使わない初老の母親が、食品をネットで購入したことが全ての迷いへのアンサーだった。食品ECが当たり前の時代が来ると確信し、同時にゼロスタートの食品ブランドを日本全国へ流通させる! そんな思いがRed Bull立ち上げ当時を思い出させ、起業の不安を吹き飛ばした。

 代理店ではなく自分のブランドとして販売を認めてもらい、当時イケイケだった楽天にて仮想店舗『LaLaカレー』を開業した。名前の由来? 思いつくのに30秒もなかった。日本でカレーといえばCoCo壱番屋。うーん、CoCoカレー、LoLoカレー…。『LaLaカレー』だ! シンプルかつ、LAと言えば西海岸(自分の中では)を想像させ、なおかつ父親の「ララカ」の名前も文字ってるから即決だった。2009年11月楽天市場『LaLaカレー』のオープンだ。カレー屋でなくカレーブランドとしての出発だ。そこからはパソコンと睨めっこの日々が続き、徐々に売り上げを伸ばし、目標としていた月商100万をクリアしたころ、3.11の大震災が起こる。

 当時の売上の主なツールはメルマガだったが、震災のなかで情報の混乱を避けてメルマガやDMなど顧客へのアプローチが禁止され、SNSを含め、主たる営業活動を自粛せざるを得ない状況になった。要は日々の業務が無くなり、注文も激減し、かなり暇になった。地震が発生して津波が各地を襲い、原発もメルトダウン。日々の業務がパソコンやスマートフォンを使用していたことから、11日の地震発生から津波の動画や、Twitterの被災者の声を毎日何時間も何時間も目にしていた。

 売り上げは日々激減。どうにもこうにもしようのない日々が続くなか、またリトル廣畑が自分に問いかけた。「食に携わるお前が今すべきことは何だ? どうせ暇だろ。困った被災者を助けなくてどうする」。自分のなかで何かが爆発した感じだった。起業から我武者羅で一人で何もかもこなし、とにかく自分中心に、自分の利益を最優先してきたことがアホらしくなった。今やるべきことは被災者へ美味しい食べ物を届けることだと決意し、直ぐに仲間、家族に連絡して被災者の支援活動の協力を仰いだ。

 生まれてからそれまで、お金はないが、家族含め、友人、バスケチームの先輩後輩、波乗り仲間、飲み仲間など幸い様々な人種、職種の仲間が自分の周りにはいた。物資運搬車両、支援物資は1週間もかからず直ぐに集まった。4tトラックに1tの軽油、飲料、食品、オムツなど必要とされる物資が満タンに集まった。炊き出しメニューはスリランカカレー、スパイスの苦手な人に用意したパスタは本格生パスタを使用したトマトベースのボロネーゼ風パスタ。炊き出しだからと言ってクオリティに妥協はしない。

 イタリアンのオーナーシェフ、日本BMX界のレジェンド、ミュージシャン、5か国語ペラペラのフランス人DJ、ブラジルBMXチャンピオンなど各方面の強者たちを連れて3月26日に静岡を出発した。目的地はロータリークラブ会員である父親に頼み、被災地でまだ支援の行き届いてない気仙沼の唐桑半島を目指した。

 慣れないマニュアル4tトラックを片道13時間ノンストップで運転し、気仙沼で炊き出し2か所をこなし、その日の夜にまた戻る、超ハードコアスタイルだがアドレナリン全開だったのか、全く疲れなかった記憶がいまだにある。気仙沼は石油コンビナートで火災が起き、一部半島は焼け焦げ、震災から2週間で現地入りした際には焦げた匂い、石油の匂いが充満しており、あたりは壮絶な景色が広がっていた。遺体安置所の隣で行った炊き出しでは、涙を流しながら「2週間ガスも水道も止まり、暖かいご飯を久しぶりに食べたし、本当に美味しい。本当に有難う。」と沢山の人へ感謝され、経験のない感情が生まれた。これがそれまで30年間探し求めてきたことだ。

 スパイスの効いた旨いカレーで人を感動させる『LaLaカレー』のミッションは「セイカツニスパイスをお届け」することだ。その後1年以上に渡り気仙沼に支援活動を続けながら、ミッションを達成すべく『LaLaカレー』の快進撃がまさに始まる。。。

プロフィール

廣畑秀明(LaLaカレー)

ひろはた・ひであき | 平成22年創業。静岡県浜松市の港町にあるスリランカカレー専門のカレー工場兼レストランの店主。

LaLaカレーハママツ
◯静岡県浜松市中区肴町312-16 ☎︎053・458・6688 ランチ11:00~15:00、ディナー18:00〜21:30、金・土18:00〜22:30 年中無休

LaLaカレーファクトリー
◯静岡県浜松市西区舞阪町舞阪2668-169 店主ヨーロッパ放浪中の為ランチ営業限定で営業中。年中無休。

Instagram
https://www.instagram.com/lalacurryjapan/

Official Website
http://lalacurry.com