フード
夏のだしパスタ。/ゲスト・三浦哲哉
USEFUL SPAGHETTI RECIPE Vol.6
illustration: Tomomi Mizukoshi
design: Shohei Yoshida
text: Ryoma Uchida
2022年8月19日
テキーラ
レストランの味、ジャンク系、和風、喫茶店のオリジナルメニューなど、スパゲッティにはそれぞれ違った魅力があってどれも最高に美味しいけれど、これから掘り下げていくのは誰もが持っているであろう”自分なりのスパゲッティの使えるレシピ”。その人が偏愛して生活の一部になっているレシピにはすごい説得力がある、というかどんな名店にも負けない味が潜んでいる気がする。ということで、この連載は誰かのUSEFUL SPAGHETTI RECIPEを淡々と掲載していく備忘録。実際に調理してみて、失敗談も含めて感想を全部メモっていこうと思う。今回レシピを教えていただくのは映画批評家の三浦哲哉さん。三浦さん、本日はどんなレシピを?
三浦さん
山形の郷土料理「だし」をパスタにアレンジした「夏のだしパスタ」です。
<夏のだしパスタ>
<作り方>
三浦さんの手書きレシピ。
テキーラ
どうしてこのスパゲッティを選ばれたのでしょうか?
三浦さん
きゅうりとなすに塩をしたときに立ち上る匂いが、昔の夏の実家にいつも漂っていて、しみじみ懐かしい、幸せの匂いなんですよね。その匂いを食べるパスタ、というわけでして。
あと、冷蔵庫に余りがちな夏野菜を一掃!できて、食後感も軽い、といいこと尽くし。
テキーラ
まさに夏にぴったりというわけですね!
おすすめの”ちょい足し”具材などありますか?
三浦さん
あえて地味なままがいいと思いますが、ちょっと華やかな変化を加えたいなら、ドライトマト。たんぱく質をしっかり取りたいならば、アンチョビをさば缶に変える。あと塩分控えめがいいなら、パスタを茹でる鍋のお湯は無塩で。
Let’s Try!
まとめ
テキーラ
今回レシピを教えてくれたのは映画批評家の三浦哲哉さん。実は三浦さん、『映画とは何か――フランス映画思想史』なんて学術的なことをサラッと書いてしまう一流の映画批評家としてだけでなく『LAフードダイアリー』『食べたくなる本』といった食に関する面白い視点の本(昨年の3月にも紹介しているよ)も書かれていて、食への造詣も深いのではと踏んでいた。その読みはバッチリ。オリジナルレシピを送ってくれた! 山形の「だし」を使用した「夏のだしパスタ」。だし、とは出汁の方ではなく、山形県村山地方の郷土料理のこと。主にきゅうりやナスなどの夏野菜をハーブ類の香味野菜で和えた地元の定番料理。ファストフード生活に慣れ親しんだ私たちのなかで、「あーあれね」みたいになる人は多くはないかも。だが聞いてほしい。実はこの「だし」は、暑さで食欲がないときでも手軽に作って食べられる最強のファストフードのひとつだったのだ。レシピにまぶされたキュートなイラストたちを眺めていたら、なんだか作るのが楽しみになってきたぞ! ということでいざ作ってみると、食材を切って合わせる+アンチョビ・にんにく・トマトを煮て、パスタを混ぜ合わせるので、いたってシンプル。それでいて完成品のこのカラフルな見た目。ハリボーと勘違いした子どもは進んで食べてしまうし、野菜の多感な味わいとハーブとにんにくの贅沢な風味に、多少量が多くても大人もペロリといけてしまう。(かなり量を多めに作ってしまったのですがすぐ食べきれました。)トマトベースのとろみとシャキシャキしたきゅうりの歯ごたえもいい感じにマッチしている。今度は、今回トッピングしなかったパセリやコリアンダーを加えて、味変してみても面白いかも。食事の際には、レシピ通り麦茶を用意。一緒に食べてみると口の中で幸せが完成した。単に郷土料理いいよねっていう気持ちよりはむしろ、”自然に”自然を感じるという食そのものの楽しみ方を味わうことができた。後日三浦さんに料理写真を送っていただいたところ、ほぼ完璧に再現できていたことも明らかに! もしかすると連載始まって以来、初めて上手く作れたかも。満を持してレパートリーに加えたい一品だ!
今回レシピを教えてくれた人
三浦哲哉
みうら・てつや | 1976年福島県生まれ。青山学院大学文学部比較芸術学科准教授。映画批評・研究、表象文化論。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程修了。博士(学術)。著書に『サスペンス映画史』(2012)『食べたくなる本』(2019、以上みすず書房)『映画とは何か——フランス映画思想史』(筑摩選書、2014)『『ハッピーアワー』論』(羽鳥書店、2018)。共著に『ひきずる映画——ポスト・カタストロフ時代の想像力』(フィルムアート社、2011)『オーバー・ザー・シネマ 映画「超」討議』(石岡良治との共編著、フィルムアート社、2018)。訳書に『ジム・ジャームッシュ インタビューズ——映画監督ジム・ジャームッシュの歴史』(東邦出版 2006)などがある。
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