ライフスタイル

シティボーイのための宴会芸。Vol.7

2022年8月5日

photo: Kyuseishu & Ganjiro Hanayama
text: Michael Mitarai 
edit: Yukako Kazuno

ターミネーター

いい映画は宴会芸になる。宴会芸学会に伝わる格言の一つだ。この連載でもこれまでにスピルバーグの『E・T』や『ジョーズ』の宴会芸を紹介してきた。今回は、“帝王”ジェームズ・キャメロンの作品から『ターミネーター』をノミネートしよう。

『ターミネーター』を象徴するシーンというと、ほとんどのシティボーイが、
・全裸でのクラウチングポーズ
・溶鉱炉にゆっくり沈みながらのサムズアップ
あたりを思い浮かべることだろう。

ところが宴会場のセンパイたちは、意外なシーンに目をつけた。以下、90年代の文献から引用する。

①「今日もいい天気だなぁ」と独り言を言う“普通の男”。
そこへ、頭・顔・腕にアルミホイルを巻いたターミネーターが登場。

アルミホイルを巻いたターミネーター

②ターミネーターは無言で男に近づく。おびえながらもケンカ腰の男。小競り合いの後、ターミネーターが男の後頭部から口へと手刀を貫通させる。(口に詰めたアルミホイルを舌を使って少しずつ出していくとリアルだ。)

ターミネーター
参考文献『ザ・宴会芸』立川竜介(著) 成美堂出版 1997年

これは金属の体を液状化して手を刃物に変えられるT-1000(『ターミネーターⅡ』の悪役)が通行人を殺害するシーンだ。こんなシーン見覚えがない、というシティボーイも多いだろう。安心してほしい。これは決してメジャーなシーンではない。しかし、同時にとてもターミネーターらしいシーンでもあるのだ。

『ターミネーター』で描かれるロサンゼルスの街は、とにかく治安が悪い。盗み、銃撃、爆破が息つく暇もなく繰り返される。そんな地獄のような世界に居ながら、やけに無防備に生活する“普通の男”がこの映画にはたくさん登場する。彼らのほとんどは、ターミネーターにカジュアルに殺されてしまう。「あれ? 何が起こったの?」という間抜けヅラだけを残して。

“普通の男“はみんな「自分だけは大丈夫」と思い込んでいる。90sの宴会芸クリエーターたちはいわゆる“正常化バイアス”への警鐘を『ターミネーター』という宴会芸を通して伝えてきたのかもしれない。民話に先人の知恵が詰まっているように、宴会芸に先人の知恵が詰まっていないと誰が言えるだろう。

とは言え、シュワちゃんすら登場しないこのシーンを『ターミネーター』だと伝えるのはやや無理がある。文献には、「ターミネーターを演じているんだ」ということを見ている側にしっかり伝えることが大切。なんて注意書きもされている。一見無謀なことに酒の力を借りて挑戦する。それもまた、宴会芸の醍醐味だ。

プロフィール

マイケル御手洗

マイケル・みたらい|1986年生まれ。日本宴会芸学会研究員。専門は宴会芸哲学。2018年に開催された第74回日本宴会芸学会で「特別講義:マイケル御手洗の宴会芸白熱教室」を開講。カントやベンサムを引用しながら“宴会芸における正義とは何か?”を語り掛ける、ナラティブでプラクティカルな講義を繰り広げ、宴会芸研究に新しい地平を切り開く。今夏はサブカルチャーの祭典「コミケ100」にも参加予定。(8/13東ぺ43b)

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第74回日本宴会芸学会「マイケル御手洗の宴会芸白熱教室」講義録
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